2018-06-10

ジョン・ディクスン・カー「盲目の理髪師」


1934年長編、その新訳版。
これ読んだことあったっけ? と思っていたのだが、なんとなく既視感を覚えるシーンや設定がある(しかし自信はない)。

ユーモアの要素が大きい作品ですが、船上ミステリであり安楽椅子探偵ものでもある。旅客船で起こった事件の関係者がフェル博士の自宅を訪ね、自分の見聞きしたあらましを博士に伝える。そして、そこからフェル博士が真相を推理する、という構成。フェル博士は物語のはじめと真ん中、それに解決編のみに顔を出す。
ミステリとしての主題は盗難の犯人と消えた死体の行方、なのだが、それらがどう関連するのかという全体像はなかなか見通し難い。

もっとも、お話は必ずしも謎を中心に進行しているわけではなく、繰り広げられるドタバタの描写に多くの頁が割かれております。登場人物たちがそれぞれ勝手な思いつきで動くので、良くも悪くも話の先行きが見えない。そのせいで、問題の焦点がぼやけている感はありますね。もはや真相などどうだっていいや、というような。
で、そのドタバタなのですが、現代の日本人からするとどうかな、といったものですね。個人的には笑えるところはいくつかあったものの、全体としては夾雑物過多というか、間延びしているような印象を持ちました。

謎解きとしてはゆるめです。伏線は大量に回収されていくけれど、決定的な証拠は無いように思える。また、捜査が不十分で穴があった、というのもなんとも。
一方で、アクシデントを誤導につなげ、さらにそれが大きな手掛かりにもなる、という趣向は実にうまいし、非常に大胆な描写がなされていたことがわかるところなど、たまらないのだけれど。

あくまで喜劇がメインかな。
次は『九人と死で十人だ』ですね。