2018-02-25

Sven Libaek / The Set


1970年のオーストラリア産映画、そのサウンドトラック。

オープナーでありアルバム中、唯一のボーカル曲 "Start Growing Up Now" が素晴らしい。ワルター・ライム・コンセプトを若々しくしたような、美麗さと疾走感のブレンドがとても心地良い。ドラムのサイドスティックも効いています。このアルバムの魅力のうち8割はこの曲じゃないかと。
あとはジャズを基調にした軽快なインストが中心。メロディの美しいものばかりなのだが、ヴァイブやフルートなどを生かした穏やかなサウンドのものが多いので、やや単調さを感じるかも。ボサノヴァ風のアレンジや、ド・ルーベを思わせるような密室的なものなど、ひとつひとつ取ってみるとどれも良く作られています。

リイシューのボーナストラックでは、シングル・オンリーであったタイトル曲のボーカル・ヴァージョンが収録されている。これもまた、いいのです。ジャズのイディオムを生かしたサンシャイン・ポップというのは、巧く決まったときにはキャッチーであってもあざとさを感じさせないものなのだなあ。

2018-02-17

Mott The Hoople / All The Young Dudes


1972年リリース、プロデュースド・バイ・デヴィッド・ボウイ。

モット・ザ・フープルで個人的なベストはというと、やはりこれになる。いかにも英国らしい陰影や重心の低さ、ストーンズを思わせるようなルーズな中での性急さがなんとも格好いい。中域が太いリードギターの音も好みだ。
この後のアルバム「Mott」や「The Hoople」にも好きな曲はたくさんある。むしろ曲そのものの出来の良さ、アイディアの多彩さは、それらの方が増していると思う。しかし、全体にサウンドが軽く、そこに下世話なアレンジが組み合わさった瞬間にはどうも居心地が悪く感じてしまう。また、セルフ・プロデュースになったことで、イアン・ハンターの大上段に振りかぶったような情緒臭さがフィルター無しに出てしまっているようなところもある。もっとも、"All The Way From Memphis" などは昇華された自意識と古臭いフレーズの綱引きこそが肝ではあるのだけれど。

アルバム「All The Young Dudes」で、というか彼らの曲で一番好きなのはというと、やはりタイトル曲になってしまう。冷静に聴けばこの曲のサウンドはジギー期のボウイそのまんまだ。しかし、それを全部、持っていってしまえているのもまた、イアン・ハンターの臭さではあるよね。

2018-02-11

C・デイリー・キング「タラント氏の事件簿〔完全版〕」


〈クイーンの定員〉にも選ばれた1935年の短編集に、後年に発表された4作品を増補した完全版だそう。
探偵役トレヴィス・タラントは裕福なディレッタントという趣の紳士。執事のカトーは、本業は医者だがスパイとして米国にもぐりこんでいるという設定。お気楽なスリラーのようでそそられるけれど、作品そのもののユーモア味はさほどでもない。
ミステリとしては強力な不可能・不可解な謎が興味を引かれるものとなっています。一方で、犯人の意外性には殆ど配慮がありません。

「古写本の呪い」 密室からの消失を扱ったもの。トリックそのものはどさくさ紛れのようなものだが、プレゼンテーションが良く出来ている。また、タラントの初登場場面は不遜な感じがして格好良かった(しかし、その後には普通の紳士になってしまうのがやや残念)。
「現れる幽霊」 怪現象が起こる呪われた家。これもトリックそのものは古めかしいが、背景への溶け込みがとてもいい。
「釘と鎮魂曲」 密室での殺人と、更なる犯罪。なかなか大掛かりなトリックと、奇妙な手掛かりの数々が面白い。
「〈第四の拷問〉」 とびきりの怪現象はシャーロック・ホームズ譚にもあったようなアイディアだが、メアリ・セレスト号の謎を絡めた導入がうまい具合にはまっています。
「首無しの恐怖」 監視状態のハイウェイ上にどこからともなく現れる首無し死体、なんて相当面白くなりそうなのだが。オカルト要素を事件に有機的に絡ませることで、読後感が印象的なものとなった一方で、物語の焦点がぼやけてしまったという気も。
「消えた竪琴」 密室内で繰り返される消失と再出現には後のエドワード・ホックを思わせるテイストがあります。手掛かりは盲点を突いたごくシンプルなもので、叙述にも工夫が見られる。それだけに真相が見え見えなのが残念。
「三つ目が通る」 ミステリとしては大したことがない。連作短編集のラストひとつ前としてはそれなりに意味があるのかしら。
「最後の取引」 人知を超えた力を扱ったもので、ミステリではない。シリーズの幕引きとしてはなるほど、といった感じで。この時代には進んだものであったのだろうな。

今回の文庫で追加された4編は1944年以降と、だいぶ後になってから発表されたもの。うち、「危険なタリスマン」は「最後の取引」の後日譚でもあり、超科学的なテーマを取り扱っていて、ミステリとしての興趣は薄い。それ以外の3作では、まだ不可能犯罪に取り組んでいるのが嬉しいところ。ただ、アクが抜けた分、粗が目立ってしまうな。

ともかく、個性的であり、不可能興味に軽めのケレン、判りやすい解決が楽しいミステリ短編集です。