2022-12-30

Astrud Gilberto / September 17, 1969


1969年、アストラッド・ジルベルトのVerveからは最後となったアルバムです、たぶん。日本で制作され日本語で歌ったアルバムが日本のヴァーヴからのみ発売されていて、そちらのほうがレコーディングは先であったが、もしやリリースは後かもしれません。

制作はニューヨーク。アレンジャーはアル・ゴーゴーニですから、ところどころジャズっぽい味付けはありますが、まあ品の良いポップス。ゴーゴーニはフォーキーなポップスを得意としたソングライターでセッション・ギタリストでもあったわけですが、ここではアレンジのみを担当しているようです。


取り上げているマテリアルは例によって英米の知られた曲のカヴァーが多いですが、特にオープナーであるシカゴの "Beginnings" が出色。この一曲によってアルバムが耳当たりの良いポップソング集にとどまらない、特別なものになっているように思います。
アレンジそのものはシカゴのオリジナルとそうは変わらないものの、パーカッションを入れリズムにラテン的なニュアンスを加えることで曲に切迫感が生まれています。さらに管がこちらのほうがずっと良い。きっちりとしたプロダクションの結果、爽やかかつ、スケールの大きな何かが始まるような雰囲気を持ち、とても恰好いい出来栄え。

アナログA面に当たる前半がややエッジを利かせたようなアレンジのものが多く、それに対して後半はもう少し落ち着いた感触の曲が並んでいて、アストラッド・ジルベルトの頼りない歌声との相性は後半の方が良いかと。中ではマーゴ・ガーヤンの "Think Of Rain" が個性がぴったりとはまった仕上がりのサンシャイン・ポップで、好みです。

基本、このひとの曲は歌手としては何の期待もせず聴くので、うまくいっているものがあると得したような気分になりますね。

2022-12-03

Roy Wood / Mustard


ロイ・ウッド、1975年リリースのセカンド・ソロ・アルバム。これもなんともいえないジャケットですな。

'70年代前半のロイ・ウッドはウィザードとしてのバンド活動もしていましたが、ソロ・アルバムの方は殆どの楽器を一人で演奏するワンマン・レコーディングで制作されています。で、ソロとしての一作目「Boulders」がパーソナルな面を感じさせるものであったのに対して、こちら「Mustard」はゴージャスで大きな編成の作りになっていて、バンドでの音楽との距離があまりなくなっているような感じがします。


アメリカン・ポップに対する愛情がわかりやすく示された曲が多く、アンドルーズ・シスターズ風のオープニング曲 “Mustard” からしてそれが顕著です。
続いての“Any Old Time Will Do” はメロディ、ハーモニー・アレンジともに'60年代初期ガール・グループを土台にしているよう。もっとも、サウンドは時代を反映していて、管楽器の響きなどいかにも抜けが良く、都会的なテイストもなくはない (オールディーズ・ポップの世界において「ガール・グループ」というタームは、1950年代終盤から'60年代初めにニューヨークで制作された黒人女性ボーカル・グループもの、という特定の音楽スタイルを指すのが一般的な用法ですかね。わたしはもうちょっと緩めに使っています)。
また、“Look Thru' The Eyes Of A Fool” はシャッフルに乗せたとてもキャッチーでこれもアメリカンなポップ・ソング。ようはフィル・スペクターなのですが、仕上がりはむしろラウドな大滝詠一という表現が近いか。

でもって、“Why Does Such A Pretty Girl Sing Those Sad Songs” は('70年代初頭くらいの)ビーチ・ボーイズへのオマージュである力作です。ベース・ボイスにはマイク・ラヴが降りてきているようだ。このアルバムでどれか一曲となったら、わたしはこれを選びます。
凝りに凝ったアレンジがいかにもしつこく、もう少しすっきり仕上げた方が良いと思わなくもないけれど、この重たさもロイ・ウッドの持ち味ではあるか。


ポップだけれど、くどい。けれど、やりたいことの多さがパワーとなっている音楽で、これこそがロイ・ウッドなのだな。