2020-10-31

小森収・編「短編ミステリの二百年2 」


二冊目です。
この巻のはじめはスリック誌「ニューヨーカー」中心に寄稿していた非ミステリ作家のものがいくつか。洗練されているし、洒落てはいるのだけれど、個人的には読んでいてあまりピンとはこなかった。
ただし、わが国での短編ミステリの需用への影響を絡めた、この辺りの作家を論ずる解説部分は冴えております。ヘミングウェイに影響を受けた大きな二つの流れのひとつが、これら都会小説であり、もうひとつが「ブラック・マスク」誌である、という展開にはどうしたって乗せられてしまう。

そして、この後からはいよいよミステリ・プロパーの作家が続きます。エンターテイメントの読み物としてはこちらの方が楽しいです。
作品の並びの大雑把な流れとしてはブラック・マスクに書いていた作家から、ジャンルでくくると零れ落ちそうなレックス・スタウトと来て、英国のポスト黄金期といった感じ。

個人的な好みとしてはハメットとチャンドラーとなるか。ここで採られている作品も既読になるのだけれど、やはり別格です。
ハメットに関しては解説部分でも小論といっていい分量が費やされ、内容も鋭く、読み応えのある分析がなされています。チャンドラーについてもその特質を抽象的な表現に流れずに語っていて、いやあ、評論とはこういう明晰なもののことだよなあ、と思わされます(なお、わたしが読んだこの本は再版なのだけれど、その巻末には、チャンドラーの「待っている」の鑑賞に更なる付記が加えられていました)。

その他ではロイ・ヴィカーズの「二重像」ですね。本巻でミステリとして一番よくできていると思いました。シンプルなんだけど巧いなあ。

あと、エドマンド・クリスピンの「闇の一撃」が拾い物でした。短編集『列車にご用心』に入っていた「ここではないどこか」の初出版であって、短い分、キレが感じられる仕上がりです。

2020-10-01

Roy Wood & Wizzard / Main Street


ロイ・ウッドがウィザードを率いたアルバムとしては最後の作品、英Esotericからのリイシュー。
元々このアルバムは1976年に「Wizzo」というタイトルで制作されたものの、先行シングルがヒットしなかったことから、レコード会社の判断でお蔵入りに。それが2000年になって英Edselより発掘されたのですが、収録曲のひとつ "Human Cannonball" はロイ・ウッド自身の意向によりオミット。この曲はしばらく後の編集盤で日の目を見、今回のリリースでは盤の最後にボーナストラック扱いで収録されております。

アルバム全体としてはサックスが大きくフューチャーされ、ジャズ要素が強く出ているのは確か。なのだが、メロディはいつものロイ・ウッド節であるし、例によってアレンジはしつこく、頭のおかしいオーボエも鳴っている。結果としてその音楽はきらびやかで、かつ実験的、しかしポップというまぎれもないロイ・ウッド。

一曲目の "Main Street" がとにかく良いです。ジャジーなアレンジと繊細でメロウなテイストのブレンドはまるで70年代のブライアン・ウィルソンのようだし、ブリッジのメロディにはロジャー・ニコルズを思わせる瞬間もあって。いや、この一曲で元がすべて取れる、グレイト・サンシャイン・ポップ。
その他の曲には、ムーヴ中期以来のヘヴィな面を引き継いだようなものもあるけれど、割合にすっきりしている方だと思う。逆にスウィング・ジャズをベースにした "French Perfume" という曲などはお洒落ポップになりそうなアレンジなのだが、ガッツがあり過ぎる演奏や歌唱とダイナミックな展開により、結果、スケール感あるものに仕上がっているのが面白い。やはりオリジナルなひとですな。

明快さと複雑さが自然に混交した、これもロイ・ウッドでしかありえない一枚。