2021-09-11

三津田信三「忌名の如き贄るもの」


三年ぶりとなる刀城言耶ものの新作長編。
一時期、作品が複雑・長大化していたのだが、今作はかなりすっきりとした仕上がり。シリーズ初期作にも通ずるテンポ、キレの良さを感じます。

例によって冒頭部分で、ある登場人物の体験した怪異が語られる。その部分の引きは強いものなのだけれど、その後に続くミステリ部分の展開からは割と淡々とした印象を受けます。事件そのものに限れば強烈な謎は無いように見える。
けれど、不可解な点をいくつも挙げながら、仮の解釈をいくつも出していくので単調にならずに読み進めてはいけます。横溝正史風というか、純粋にフーダニットしていて楽しい。

というか、実際に現場に赴いてのちの刀城言耶はかなり、金田一耕助である。もちろん事件の性質は異なるし、捜査方法も違うのだが、キャラクターとしての振る舞いですね。以前よりも遠慮がなくなったように感じます。

解決編になるといつものごとくスクラップ&ビルドなのだけれど、ここ数作ほどはねちっこくない。有力な容疑者がみな消去されてしまい、前提を見直して、それでも犯人たりえる人物が得られず、という試行錯誤が繰り返されます。
そして、まさに大詰めになってから突然、ある種の不可能状況が浮かび上がってくる。この部分にしびれました。そこからの急転直下、まさかの犯人指摘。おそろしくシンプルな一撃、めちゃめちゃ恰好いいなあ。

ここまででも充分ですが、さらに終章では、ひとつの気づきが提示され、それまで見せられていたものの意味がずれていきます。メタ的視点を作品内レベルに折り込んだ、というか。ここへきて、直接には事件と関係ないと思われていた要素がいくつも、一気に結びついていく。あこぎとも言えそうですが、いや、グレイトですわ。
結末の落とし方もいい。

怪異を単なる味付けに終わらせない上に、本格ミステリとしての密度もとても高いと思います。うむ、文句なく面白かった。