2017-06-25

Anita Kerr Singers / Sounds


混声カルテットのボーカル&コーラスアルバム、1968年リリース。L.A制作で、録音はリー・ハーシュバーグ、プロデュースとアレンジにはアニタ・カー自身がクレジットされています。
ポップスとして聴くとやや派手さに欠けるのですが、かえって古びていないのかなと。いや実際、聴き所には事欠かない作品なのですよ。

収録されている12曲中7曲がカバーとなっていて、中でもオープナーの "Happiness" が耳を引く出来栄え。これは前年に出されたアソシエイションのアルバム「Insight Out」に収録されていた(そちらでのタイトルは "Happiness Is")アドリシ兄弟の書いた曲で、オリジナルのがっちりと組み上げられたハリウッド・ポップ加減に比べて軽やかな仕上がりが快い。コーラスの女声がロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズを思わせるようで、実に好みですね。
アドリシ兄弟によるものがもうひとつあって、その "I Would Love You" もなかなかの佳曲なのだけれど、これはアリーズのオリジナルの方がいいかな。
他では、ミシェル・ルグランのサントラ曲 "I'm Falling In Love Again" はリズムを強調しているけれどジャズっぽさも感じられ、洒落ているな、と。エンディングで動き出すオープンハーモニーも格好良い。
また、スタンダード曲 "Swinging On A Star" はスパンキー&アワ・ギャングやママ・キャス・エリオットあたりを思わせるオールドタイミーなアレンジがぴったり決まっています。

一方、このアルバムのために用意された曲では、アニタ・カー自身の手になるシャッフル "Say You Do" が特に良いすね。ちょっとフリー・デザインっぽいセンスが感じられるし、間奏後のスウィングル・シンガーズを意識したようなパートも嵌っています。
あと、いかにも'60年代ポップ、というプロダクションの "Today Is" もなかなか。ブリッジ部分での「パパパ」コーラスが際立っていますね。

全体に控えめな感触なもののアレンジはセンス良く、サンシャインポップ的な意匠も楽しいアルバムです。

2017-06-12

The Rolling Stones / Their Satanic Majesties Request


「Sgt. Pepper's~」を聴いていたら、なんとなくレノン&マッカートニーが参加している "We Love You" や「Their Satanic Majesties Request」(1967年)も聴きたくなった。

このアルバム、あまり良い評判を聞かないのはメンバー自身がぼろくそに言っているというのも大きいのだろうが、まあ確かに退屈な曲も多い。アレンジだけで持たせました、みたいな。"Sing This All Together (See What Happens)" などはとりとめのないいくつかのセッションをつなぎ合わせただけのように思える。しかし、出来が落ちる曲があるのはこれ以前のアルバムでも同じことがいえるのだけどね。
一方で、サイケデリックとストーンズの喰い合わせというのは、どんなものかしら。なるほど "She's A Rainbow" は大した出来だけれど、あとサイケポップとして魅力を感じるのは "The Lantern" と "2000 Light Years From Home" ぐらいで、ほかの曲ではアイディアが未整理なまま突っ込まれているよう。それより、むしろサイケデリックな意匠以外のところに良さを感じることが多い。"Citadel" におけるワイルドなギターのコードリフ。"2000 Man" のアコースティックパートに漂うリリシズム。そしてキンクスのような "On With The Show"。

個人的にはこのあたりの時代に作られたアルバムの多くは、ステレオ・ミックスのほうがカラフルで楽しいのだけれど、「Their Satanic~」に関してはモノラルのほうがタイトで、バンドらしさを強く感じられるようで好みかなあ。

ところで、このアルバムのミックスとマスタリングは米国でなされ、カナダ以外の他国ではそこからのコピー・マスターが使用されていた。だから、USプレスこそが真のオリジナルだと主張するひともいる。あと、UK盤のモノラルはプレスによってはステレオからのフォールド・ダウンのものもあるらしい。なんだかややこしい話ではあります。

2017-06-11

横溝正史「夜歩く」


金田一耕助ものとしては三作目の長編。1948~49年に雑誌連載されたそう。

首の無い死体を扱っているのだが、凶器をめぐる不可能状況や夢遊病の登場人物(タイトルはそこから来ている)などがさらに事件を錯綜させる。
物語の前半は東京で展開。事件発生後二ヶ月すると舞台はまたも岡山に移り、そこでようやく金田一耕助が登場。

道具立てには露悪的というか扇情的なところが目立ち、現代の作家が書いたら問題になるだろうが、スピーディで派手な展開や、全体に強く漂う探偵小説趣味が読んでいて実に楽しい。

ミステリとしてはあこぎなほどトリッキーだ。読み慣れた人間ならとりあえずその可能性は疑うのだが、それでも引っ掛けられる(そこに腹を立てるひともいるだろう)。明らかにされる犯罪計画の細部には辻褄合わせのような粗いところが多いし、あまりに都合よく事が運びすぎるのだが、メイントリックの衝撃と熱のこもった文章の勢いで押し切ってしまう。
複雑に見えた事件がとてもわかりやすいかたちに解体されていくのも良く、もっとも強固な謎が逆に解決の糸口になる、というのが実にスマートです。

瑕疵も目立つけれどダイナミックで力強い作品ですな。抜群に面白かった。

2017-06-06

アガサ・クリスティー「スリーピング・マーダー」


新婚のニュージーランド女性グエンダは新居を求め、夫より一足先にイングランドの地を踏んだ。そして、たまたま立ち寄った地で一目見た住居を気に入った彼女は、早速その家を買い入れて改修を始める。しかし、イングランドに来たのさえ初めてなのに、彼女はその家の中で何度か奇妙な既視感を覚える。そしてある日、過去に家の中で犯された殺人の情景がグエンダの記憶から浮かびあがってきた。


1976年、クリスティの死後に発表されたジェーン・マープルもの最後の長編。実際に執筆された時期に関しては諸説あるようですが、1940年というのが有力で、後年に改訂がなされているらしい。そうなると、まだマープルものの第二長編『書斎の死体』(1942年発表)も世に出てないうちに書かれていたわけだ。また、作中では『動く指』の事件にも言及がなされています。
本作と同時期に制作されたというエルキュール・ポアロもの最終作『カーテン』では、老いて死期を近くにしたポアロの姿が描かれていました。しかし、この作品内の時代はどうやら1930年代に設定されているようで、マープルもまだまだ元気です。

ミステリとしては発端に提示される謎が非常に魅力的で、ヘレン・マクロイあたりが扱いそうなファンタスティックなものであります。しかし、マープルは非常にあっさりと現実的な説明をつけてしまうわけで、焦点はそこから過去に起こった事件へ移っていきます。

調査は主に事件の当事者である若い夫婦が行い、マープルはそれを補佐していく、という感じ。もちろん、最後の絵解きはマープルが行うのだけれど、フーダニットとしては正直ゆるいですね。ミスリードがいまひとつ効果をあげていないかと。明らかにされる伏線には面白いものがあるのですが。
それでも印象的な場面作りのうまさや、関係者のキャラクターが徐々に浮かび上がっている過程で十分に読ませます。

実際に書かれた時期を考慮すればそこそこ止まりですが、最後の長編としては良い出来かと。

2017-06-03

The Beatles / Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band


50周年のスーパーでデラックスなやつを聴いています。

新規ステレオ・ミックスは良くも悪くも現代的なものですな。ディテイルが鮮明で迫力がある分、サイケデリックな浮遊感や奥行きが薄れたという印象。個人的には "She's Leaving Home" の麗しさが際立っているように感じます。"Good Morning Good Morning" のダブルドラムも実に強力。
そもそも、昔のものと同じ感触になるのならリミックスの必要はないわけであって、違っていて当たり前。そのときの気分でオリジナルとリミックスのどちらかを選べばいいのだ、とは思う。けれど、このマスタリングはあまり好みではないなあ、ブルーレイに入ったものも含めてドンシャリで。この点に関しては2009年リマスターのほうがいい。

一方で、ディスク2、3に収録されているアウトテイクの数々は、そこまで強くコンプレッサーが掛けられていないよう。かつての「Anthology」がノイズ・リダクションのせいなのか生気の感じられない音の上、独自の編集が施されていて、結局はブートレグのほうが良かったことを思い起こすと、これはなかなかの塩梅ではないか。
内容のほうも聴き所が多い。"Penny Lane" のインストはブリリアントだし、"Within You Without You" の初期ヴァージョンでは3パート構成の順番が違っているのも発見ですね。
また、ジョンのボーカルがダブルトラック処理されていない、素のかたちで聴けるのが嬉しいところ。他にも、このアルバムではテープ操作でボーカルをいじっている曲が多いので、 それらを元のピッチで聴くことが出来るのはいいですね。

さて、次はホワイト・アルバムだ、なんて話もありますが。8、9枚組とかなんすかね。うへえ。