2011-10-29

Brian Wilson / In The Key Of Disney


ブライアン・ウィルソンのニューアルバムは前作「Brian Wilson Reimagines Gershwin」に引き続きカバー集であります。今回はディズニー映画の挿入曲がテーマということで、取り上げられているのも1937年の「白雪姫」から昨年公開された「トイ・ストーリー3」までと実に幅広い。作曲クレジットを見るとエルトン・ジョンとランディ・ニューマンがそれぞれ2曲づつあって、ブライアンがこういった同時代のアーティストの曲をカバーするというのもなんだか不思議。

内容的には、「SMiLE」セルフカバー以降のアレンジのボキャブラリーの拡がりをはっきり意識させられるものもあれば、定番の60年代風スタイルであったり。またはドライなアメリカンロック的な瞬間もあれば、はてはボ・ディドリー!?というものまで。 色々やってはいるけれど、最終的にはどんな曲でもブライアン・ウィルソン印だな、という感じで。題材の消化が半端ないですな。
前作のガーシュイン集には紛れも無いポップスでありながらブライアン流ルーツ・ミュージック探訪のような趣もあったように思うのだけれど、今回は比較的テーマの縛りが緩いものであるせいか、気楽に楽しめるものに仕上がっています。
サウンドについてはコーラスのエコーが深すぎるんじゃないか、とかドラムの音どうなの、なんて思わなくも無いのですが。

カバー集が続いたり、もうライヴはやめるようなアナウンス、あるいはビーチ・ボーイズ版「SMiLE」の正規リリースと、なんだかブライアンはキャリアのまとめに入っているような気もする。
ファンとして本当は新曲で固められたアルバム、というのが一番聴きたいところであるけれど。

2011-10-27

Phil Spector presents The Philles Album Collection


来たぞコラ。フィレスのアルバム6タイトルを再現した箱だ。4ヶ月ほど遅れたが、当初アナウンスに無かったシングルB面曲を収録したコンピレーションが一枚増えているから納得しましょう。ライナーノーツはその界隈では知られたミック・パトリックが書いています。


まず言っておくとこれは熱心なファン向けのリリースであって、間違ってもこれでスペクター入門しようとかは思わないでね。
アルバム間の曲のダブリがあって。特にクリスタルズはエライことになっていますよ。
さらには、シングルB面曲のコンピなんだけど。確かに殆どの曲は初デジタル化であるが、フィレスのB面なんて聴いてそう面白いものではないのね、インストのジャムセッションばっかだし。そもそもスペクターにとってシングルA面こそが大事なのであって、下手にB面にいい曲を入れてそちらをラジオでかけられることは避けたかったのだな。
あと、細かい事をいうとクリスタルズのファースト「Twist Uptown」(1962年)頃はまだニューヨーク制作であり、独特のサウンドの完成には至っておらず、ファン以外の人にとっては普通の古臭いオールディーズじゃん、と思えるかも。後にLAにおいて実現されるヴィジョンの萌芽を見て取るという楽しみはあるのだけれど。
ヒット曲の類はおおかた2月に出た4種のベスト盤に入っているし、特に曲数が多いわけでもない今回のリリースは、オリジナルに準じた仕様ということに意義を見出せない人にはキツイかもしれない。
それでもボブ・B・ソックス&ブルー・ジーンズがまとめて聴けるなんて素晴らしいではないか(と言って同意できないひとはやめといた方がいいかな)。

なお、音の方はすっきりクリアで聴き易いのだが、それってウォール・オブ・サウンドとしてどうなの、という気はしないではない。アブコの「Back To Mono」ボックスに馴染んでしまったからかもしれないけれど。


そんなことはともかく。
ロネッツ唯一のアルバム「Presenting The Fabulous Ronettes Featuring Veronica」は1964年リリース。フィル・スペクターのピークを記録した一枚でしょう。シングルの寄せ集めのようなところがあるので、内容は当然のように良いです。ビートルズ上陸以前のアメリカン・ポップ、その集大成では、なんて口走ってしまいそうになる、とんでもない充実ぶり。
いやいや本当に楽しいよ。

2011-10-22

Van Dyke Parks / Arrangements Volume 1


ヴァン・ダイク・パークスが過去にアレンジを手がけたワーナー音源より自ら選曲したコンピレーションが出ました。
パッケージは見開き仕様の紙ジャケット。本人によるライナーノーツは若い頃のざっとした回想録のようなものなのですが、ボブ・トンプソンのような存在ですらあまり儲かっていないとかそういう話も。


なんといっても、ヴァン・ダイク自身の初期のシングル曲が5曲収められているのが魅力で。"Donovan's Colours" はジョージ・ワシントン・ブラウン名義でリリースされたモノシングルミックス、"Farther Along" は恐らく初CD化では(アナログ盤起しのようですが)。"Come To The Sunshine" "The Eagle And Me" "Out On The Rolling Sea When Jesus Speak To Me"は既にCD化されていますが、こうやって一箇所に纏められたのが嬉しい。
さまざまな楽器がそれぞれに主張しているようでありながら、全体としてはしっかりとひとつのイメージを結んでいるこれらの曲は、改めて聴いても強烈。
またムーグシンセを使った短いインスト "Ice Capades" というのもあって、これはスケートショー宣伝用ジングルのよう。まあ、レアなんでしょう。

その他、収録されているアーティストはボー・ブラメルズのサル・ヴァレンティノ、アーロ・ガスリー、ボニー・レイット、モージョー・メン、ライ・クーダー、リトル・フィートにローウェル・ジョージのソロなどですが、それらは殆ど他でも聴けるものかな。珍しいものとしてはディノ・デシ&ビリーのディノ・マーティンが歌うジミー・クリフのカバー "Sitting Here In Limbo" というものも。
量的にはちょっと物足りない気がしますが、ヴォリューム2も出るのかしら。

こういうアレンジャーの仕事を纏めたものというのは珍しいのではないか。ぱっと思いつくのは英Aceによるジャック・ニーチェくらいで。チャーリー・カレロなんかもあっていいんじゃないか、と思います。

2011-10-20

ジャック・カーリイ「百番目の男」


ひとのすなるカーリイなるもの、われもせんとて(てきとう)。まずはデビュー作をば。
公園で発見された首無し死体。それは死後、故意に目立つ場所に移動させられていた。さらに下腹部には犯人によって書かれたとおぼしいメッセージが。

主人公はわずか二年で巡査から刑事に昇進した、キャリア三年のカーソン・ライダー。若く才能があって、まあまあいい暮らしをしているようで、ちょっと生意気でもある。相棒はベテランの黒人刑事ハリー。本書は異常犯罪担当の特別部署に属する二人が連続殺人事件を追う物語だ。
基本、ライダーによる一人称であるが気取った軽口や比喩が多く、ときおり鼻に付くほど。例えば被害者の係累を描写するこんなくだり。
「ビリー・メッサーは若い時分にはエキゾチック・ダンサーだったが、エキゾチックは垂れ下がってしまい、いまではかつて男たちをたきつけて買わせた飲み物を作って生計を立てていた」

ミステリとしてはサイコキラーものと、警察小説の要素を両方取り込んでいるんだけれど、それぞれに既視感があるというか定石通りのものを並べたような印象は否めない。
ライダーは組織上部からの妨害を受けながらも事件の捜査を進めつつ、合間に女を口説き、さらには自らも暗い過去や秘密を隠して、となんだか盛りだくさん。あっちもこっちも膨らみを持たそうとしていて、ちょっと読みにくい。
本筋にエンジンがかかりだすのは物語の半ばを過ぎて、新たな手がかりを掘り起こしてからである。暗い心の伝播による地獄めぐりが一気に流れ始める。

真相開示シーンでは大真面目な論理が別な次元に横滑りしていく瞬間が素晴らしい。新たな次元から光を当てる事で思っても見ない情景を立ち上らせる趣向は、優れたセンスを感じさせるものだ。また、同時にそれまでは観念的に見えていた狂気に下世話なリアリティが獲得されるのも良い(とはいえこれは狙って出来る芸当でもないような)。
一方でミスリードは上手くないし、クライマックスが冗長になるなどバランス悪く、全体としてはあまり良い出来とは言えないのだが。
才人の若書きなのか。二作目『デス・コレクターズ』を読むまではとりあえず保留ということで。

2011-10-19

Todd Rundgren / Runt


トッド・ラングレンのベアズヴィル時代のカタログが英Edselより2CD形態でリイシューされました。今回出たのは「Runt / Runt: The Ballad of Todd Rundgren」「Something/Anything」「A Wizard a True Star / Todd」「Initiation / Faithful」そしてユートピアの「RA / Oops, Wrong Planet」の5セット。付属ブックレットの記載を見ると、後4セット9タイトルが予定されているようであります。

今回のリイシューのいくつかはボーナストラック付きなのだけど、目玉はファーストの「Runt」(1970年)。アンペックスからの初回ミスプレス盤12曲入りに収録されていた別テイク等が8曲すべて収録されています。まあ没ミックスとかは正規なものより良いはずがないですが、"Baby Let's Swing" の全長版や未発表であった "Say No More" がちゃんとした形で聴けるようになったのは嬉しい。


「Runt」において多くの曲でドラムとベースを演奏しているのはトニー、ハントのセイルズ兄弟で、その他のパートはトッド自身によるもの。後にイギー・ポップの「Lust For Life」に参加したり、デヴィッド・ボウイとティン・マシーンを結成するセイルズ兄弟なのだけれど、この当時はまだ十代のアマチュアみたいなもので、全体にこじんまりとしていることは否定しがたく、ゲストプレイヤーが演奏している曲と比べるとちょっと見劣りがする。
ただ、細部に及ぶアレンジはそういった面を救って余りあるもので。ソロデビュー盤とあってかサウンド全体の方向性は定まっていないし、唄い方にもまだしっかりした個性が確立されていないにもかかわらず、幾重もの音の重ねかたには既にトッド・ラングレンならでは、と言いたくなる魅力が横溢しております。

個人的に好きなのはメドレーの "Baby, Let's Swing/The Last Thing You Said/Don't Tie My Hands" かな。洒落たメロディは勿論、ハーモニーのアレンジがとっても楽しい。

2011-10-11

James Brown / The Singles Vol.11: 1979-1981


Hip-O Selectからのジェイムズ・ブラウンのシングル集もいよいよ打ち止めのようであります。勿論JBはこれ以降もさまざまなレーベルからレコードをリリースしてはいたのだけれど、ユニヴァーサルが権利を持つのはここまで、ということですね。

このシリーズの何が良かったか。まずは音ですね。
今までのJBのCDでは一番音質が良かったんでは。
それからアルバム未収録・初CD化の曲も多く、さらにはリリースが計画されたけれどお蔵入りになった未発表・別ヴァージョンなどのレアトラックが混じっていたり。

そしてJBのマネージメントをしていたアラン・リーズによる詳細なライナーが素晴らしく、これだけでもちょっとした値打ちがあるもの。当時の資料を調べ、元バンドメンバーやレコーディング・スタッフたちのコメントを盛り込んだそれは、個人的な感情や感想でなく、まずは事実に語らせるというものだから読み応え満点。
エピソードも満載であって、"It's A Man's Man's Man's World" のドラマーとしてはバーナード・パーディがクレジットされているが、実際のOKテイクではジャボ・スタークスが叩いている、とかいう話も興味深いではないか。
作曲においてナット・ジョーンズやピーウィー・エリス、フレッド・ウェズリーたちが果たした役割の大きさも再認識できました。

JBは所謂アルバムアーティストではなかった。それは時代的な限界もあるのだけれど、音楽スタイルのイノヴェイションのスパンがかなり短かったということも大きい。それと何しろ仕事量が多い。ツアー先の土地でもスタジオを押さえていて、ライヴを終えた後にレコーディングを行なうのは普通であったし、自分のバンドがオフのときにもセッションマンたちとともにスタジオ入りしていたのだ。アルバム単位で提示することなど初めから眼中にないのだな。この「The Singles」のシリーズを聴いていると絶えず新しいアイディアが生まれ、数ヶ月単位でダイナミックに変化していく様子が追体験できる。

さて、この第11弾ですが。2枚組の一枚目はポリドール在籍時最後のシングルをまとめたもので、これまでと同じなんですが、二枚目が12インチヴァージョン集になっていて。ネタ切れなのを無理に2CDに合わせた、という感は否めません。ただ、JBの曲は長尺のものも多くて、それらはシングルでは両面にまたがって収録されていました。だから12インチというフォーマットはそもそもJB向きであった、と強弁できなくないか、な?

2011-10-10

The Critters / Awake In A Dream: The Project 3 Recordings


クリッターズがイノック・ライトのプロジェクト3に残した音源がCD化されました。セカンド、サードアルバム全曲に加えシングルオンリーの一曲が収録されていて、コンプリート版になるのかな。

1968年のアルバム「Touch'n Go With The Critters」は長らくリイシューが待ち望まれていたのでは。
キャップレーベル時代のフォークロックと比べるとソフトで落ち着いた感触ですが、ぐっとサウンドは豊かになりポップスとしてアレンジの手が込んだものになっています。特にコーラスには力がこもっていて、曲によってビーチ・ボーイズぽかったり、ジャズコーラス風であったりの凝りようが楽しい。
楽曲の出来の方も、飛び抜けてキャッチーなものは無いけれどアルバム一枚通してどれもしっかりと作られていて、メロウさが心地いいです。
サンシャインポップのファンにならかなり自信を持ってお勧め。

翌年の「Critters」になると、それまでスタジオミュージシャンに演奏を任せていたのを自分たちでやってみたい、と言い出して。ロックバンドらしさが強いサウンドになっていますがそんなに上手くもなく、プロコル・ハルムの出来損ないといったところ。アイディアをしっかり支えるだけの力がバンドに不足しているように思うし、ボーカルの線の細さが物足りなくなってしまう。良いメロディがところどころにあるだけに惜しい。


まあ、「Touch'n Go With~」がCD化されただけでも収穫大でありますね。
ところで、ブックレットを読んで知ったのだけど、プロジェクト3というレーベルは音楽的には好きなようにやらせてくれたが、ポップレコードを売るノウハウが無く、プロモーションも全然してくれなかったとか。なるほど、そういう社風だからフリー・デザインが大してセールスが無くとも、あれだけのアルバムを作れたのかなあ。

2011-10-09

アガサ・クリスティー「シタフォードの秘密」


1931年発表のノンシリーズ長編。書き出しがすばらしい。雪の山荘という典型的な舞台ではあるけれど、ほんのわずかな描写でその情景をはっきりと浮かびあがらせる手際は見事。
降霊術の最中に、霊によって殺人が起こったことが告げられる。そして実際、降霊術が行なわれていたまさにその時間に、距離を隔てた場所で事件が起こっていた、というお話。ディクスン・カーが好みそうな不気味な道具立てなのだけれど、後から特に怪奇ムードを盛り上げるわけでもなく、平明なフーダニットとして物語が進行するのはクリスティらしさか。

事件の指揮を取る警部は抜け目無く手堅いが、それだけではクリスティの作品にはならない。事実だけで無く、もっと入り込んだ人間関係を穿り出す探偵役がひとり必要。そう思っていると100ページちょっと過ぎたあたりで容疑者のフィアンセが登場。頭の回転が早く行動的という、女史の冒険物ではお馴染みの属性を持つヒロインです。

なんだか隠し事をしているような人物はいるのだけれど、はっきりした手掛かりが無いままで、厳密な証拠の検討もあまり見られず。キャラクターの魅力と何か企みがありそうだぞという雰囲気でもって物語は終盤まで引っ張られていきます。

突然明らかにされるメイントリックは、それだけ取ると現在ではやや古く見えるのは否めないか。ただ、以前に使ったアイディアを他のトリックでもって補強することで意外性を高める、という工夫が良いです。
そして、結果としてフーダニットらしさを守ることが実は一番の煙幕であった、という趣向は面白い。
年季の入ったミステリファンの方が楽しめるかもしれませんね、これは。

2011-10-08

The Pleasure Fair / The Pleasure Fair (eponymous title)


プレジャー・フェアは女性一人を含む四人組のヴォーカルグループ。後にブレッドを結成するロブ・ロイヤーが在籍し、1967年にリリースされたアルバムのプロデュースはデヴィッド・ゲイツが手がけています。

音のほうはソフトで美麗なコーラスを生かしたフォークロック。管弦やハープ等も入ってカラフルでクラシカルな感じが付加されているのだけれど、決して大げさにはならずむしろ全体に抑制された感じが好感。ハル・ブレインのドラムは派手なことはしてないけれど演奏を引き締め、甘さに流れ過ぎないようにするのに大きな役割を果たしていると思います。

メンバーによるオリジナル曲はバブルガム的なキャッチーさこそ薄いですが、どれも良くできていて繰り返し聴くほどに良くなってきますよ。
4曲あるカバーもそれぞれちゃんと考えられていて、安易なつくりのものが無い。ヴァン・ダイク・パークスの "Come To The Sunshine" は曲の進行に伴って変化していくアレンジが万華鏡のようでありますし、当時の映画の主題歌 "Barefoot In The Park" もヴィブラフォンがジャジーな雰囲気を醸していてセンスの良さを感じます。

細かなアレンジの妙と押し付けがましさのない品の良さが嬉しい、当時のLAポップの洗練が楽しめる一枚。もっと話題に上ってもいいアルバムだと思うんだけどなあ。