2019-12-27

法月綸太郎「赤い部屋異聞」


過去の名作をベースにした、というくくりの9作品が収められた短編集。はっきりと原典がわかるオマージュからモチーフのひとつとして取り入れている程度のものまで、スタンスはさまざま。バラエティに富んだ内容で、ミステリ作家としてのショウケースのような趣もありますか。


タイトルからしてすぐにそれ、とわかるのが「赤い部屋異聞」と「続・夢判断」。
「赤い~」の設定はもちろん大乱歩の有名作だが、そこから捻って捻ってという展開や、あえてすっきり落とさない結末は新本格というか幻影城というか。表題作だけあって、非常に力のこもった出来。
「続・夢判断」の方もいかにも新本格らしいよなあという、弄り回した一作なのだが、このような「奇妙な味」風の作品に形の整った絵解きを入れるというのも、わかるのだけれど、原典のことを考えるとスマートさに欠けるという気も。いずれにせよ、この作家らしい。

ミステリらしいミステリ、「砂時計の伝言」はパズルとしてはあまりにシンプル過ぎるのですが、ダイイングメッセージの取り扱いが現代的といえましょうか。被害者による倒叙形式と捉えればすっきりはまるのだけれど。変なことを考えるものだと思うし、それを作品として完成してしまえるというのも大したものだ。

なんだか趣味に走ってるなあ、というのが「対位法」。物語の終盤に来て、ようやく元となる作品の当たりがついた。結末はリドル・ストーリーのかたちをとっているが、強引に解釈すれば確定はできる(もっとも、そうする意味はないが)。

『挑戦者たち』にも収録されていた「最後の一撃」は独立した短編として充分成立しているし、むしろ単独で読んだほうがオチの意外性を感じられていいかも。

その他ではホラーにいいものがあったのが収穫。「葬式がえり」での予想のつかないところへの落とし方はミステリ作家ならでは。アイディアのいただきがひとつの作品からではない、というのもミソか。「だまし舟」は割合とオーソドックスな展開ですが、架空の作り込みには力が入っていて、本格的なものになっている。


小味な芸が楽しめる、書いていて楽しかったのではないか、という気がする一冊でした(前にもこんなこと書いていたな、いいのか?)。