2020-06-20

平石貴樹「潮首岬に郭公の鳴く」


函館の資産家の美人姉妹が芭蕉の俳句に見立てたような状況で殺害されていく、というお話。一見した道具立ては横溝正史です。
視点人物となる舟見警部補は『松谷警部と向島の血』にも捜査協力者として名前とその手による書簡が出てきていた人物であって、作品内世界が地続きなことを示しています。

展開は非常に派手なものの、平石貴樹の書き振りは(良くも悪くも)変わりがない。品がよいというか、羞恥心があるというか。わたしはその抑制を好ましく思うのだが、そうでないひともいるでしょうね。ふぅ。ジャンクフードばかり喰い過ぎなんだよ。

登場人物はとても多いです。で、それに伴うように謎も多くなっていき、読んでいる途中で、いくらなんでも枝葉がすぎるんじゃないの、これは無駄な部分なのでは、という気がしてきました。それが解決編に至ると、全てに解答が用意されていて、あれほどややこしく感じたものが、意外なくらいすっきりとした全体像を結ぶのだから気持ちいい。
また、明らかにされる動機の強さに圧倒されるが、それは同時に手の込んだ犯罪計画に説得力を与えるものだ。そして、その動機を示した伏線の美しさよ。

事件のもつスケールの大きさとすっきりとした文体のミスマッチはあるでしょう。しかし、ここまで巧緻であれば、そうした瑕疵などどうでもいい。この作者らしく、かたちの綺麗なパズラーでした。

2020-06-13

Pigmalião 70 (original soundtrack)


1970年、ブラジルのTVドラマのサウンドトラック盤。
プロデューサーはネルソン・モッタというひとがクレジット(よく知らない)。アレンジには三人の名前があるのですが、アーロン・シャーヴスというひとがメインのよう。うちにある盤だとエリス・ヘジーナの麦わら帽のやつ、「Como & Porque」のオーケストラがこの方の仕事か。

全体に優雅で軽やか、メロウなアルバムだけれど、特に女声グループのスキャットで唄われるタイトル曲 "Pigmalião 70" ね、マルコス・ヴァーリの書いた、これがとにかく良いメロディ。細かいフレーズのギターと鍵盤の絡みが良く、パーカッションもばっちりはまった仕上がり。スキャットの妙な生々しさ、イントロとサビのみで出てくるストリングスの響きなどはブラジリアン・ポップスならではであります。まあ、アルバム中でもひとつ抜けていますね。
その他では、2パターン入っている "Tema De Cristina" という曲はヨーロピアンなオケが心地良く、特にスキャット(ユニゾンで入っているギターが効いている)で唄われるヴァージョンはイタリアのサントラものを思わせる軽薄な出来で、よろしいですな。
また、エグベルト・ジスモンチの "Pêndulo" はアルバムの雰囲気を守りながらも個性を感じさせる作り込みで、繊細かつドラマティックな曲に仕上がっています。

そういったソフトな感触の曲と対照的なのがヤングスターズなるグループによる "Tema De Kiko" で、ファンキーなオルガン・インスト。ドラムブレイクも決まっており、アルバム中では異色なのですが、ワイルドながらラウンジ感もあって、実に格好いいです。

う~ん、どうもサントラの良さを文章にするのは難しいね。
英米ものとは違う管の音色の処理なんかも気持ちいいアルバムです。

2020-06-06

Richard "Groove" Holmes / New Groove


オルガン奏者、リチャード・ホームズによるジャズ・ファンク盤。1974年、Groove Merchantからのリリース。

ドラムがバーナード・パーディ、なのでグルーヴはある程度は保証されたようなものなのだが、この盤ではドラムが左、ラテン・パーカッションが右チャンネルに配置。でもって、ベースラインはホームズ自身の左手によるもので、非常に太く、くっきりした存在を示していて格好いいです。これでゴリゴリ攻められるとちょっと胸焼けしそうだけれど、演奏時間がうまい具合にコンパクト。また、二本入っているギターのうちリードを取っている方がカラフルというかヴァーサタイル、それでいて押すときは押す、という物のわかったプレイでアルバム全体の風通しのよさに貢献しているよう。

全7曲中、3曲がホームズの自身の手になるもので、うちオープナーの "Red Onion" は重心低めのスロウ・ファンク。パーカッションが熱を煽りつつ、リズムギターがルーズな雰囲気を強調する。これがファンクとしてはアルバム中、一番の出来ではないかしら。なお、あとふたつのオリジナル曲は割合にオーセンティックなオルガン・ジャズであります。
カヴァー曲ではメロウな要素を意識しているのか、ジョビンの曲が "Meditation" と "How Insensitive" のふたつ取り上げられています。リズムは全然ボサノヴァではないもののパーカッションの働きでラテン風味は出ていますし、ある程度の瀟洒な味付けもなされています。
また、スティーヴィー・ワンダーの "You’ve Got It Bad" は都会的なテイストをたたえた仕上がりで、スタッフあたりのR&B寄りフュージョンを意識しているふしも。
そして、その "You’ve Got~" とともに時代への目配りが感じられるのが "No Trouble On The Mountain"。ギタリストのリオン・クックが書いたアルバム中で唯一の歌もので、ボーカルの線が細いことが、かえってニューソウル感につながっているかと。

編成はホーンも入っている、そこそこ大きいものだけれど、雰囲気はインティミット。各プレイヤーの持ち味をしっかり出しながらも全体にそこまでコテコテ感はなく、バラエティにも配慮されたいいアルバムです。