2020-12-30

Brian Protheroe / The Albums 1974-76


今年の後半、一番良く聴いていたのがこれ。
英国の舞台俳優が1970年代中盤にChrysalisより出した3枚のアルバム+エキストラのセットです。

ブライアン・プロザローは'60年代から音楽活動と芝居を平行して続けていたそうで、レコードデビュー時点で既にそこそこ年季が入っていた模様。
その音楽は、モダンポップとAORの間を落ち着きなく行ったり来たりするもの。基本はシンガーソングライターでありますが、ときにはギルバート・オサリバン・ミーツ・初期10cc、あるいはスマートなデフ・スクール、という具合に一曲の中でも様相が変わっていくような、一筋縄ではいかない英国ポップが展開されております。
プロデュースを手がけていたのはデル・ニューマン。このひとには美麗なオーケストレーションを施すイメージを持っていたのですが、ここで聞けるサウンドはちょっと意外でしたね。

とにかくこのプロザローさん、書くメロディはすごくいいし、歌もうまい。多重録音のハーモニーは決まっているし、アレンジも多彩。でもって、相当に凝った作風なのに、あまり尖った感じがせず、親しみやすさがあるのはキャリアのなせる業、かしら。
収録されている3枚のアルバムでもフォーキーに寄ったりシティポップぽかったりと多少の音楽的な変化はあるのだけれど、力が抜けてしまったような曲が見当たらないのは立派。

演奏のスケール感は後の作品ほど大きくなっていますが、英国ポップの伝統を強く感じさせてくれるという点で個人的には1枚目の「Pinball」が一番好みですね。

2020-12-06

アンソニー・ホロヴィッツ「その裁きは死」


元刑事ダニエル・ホーソーンものの二作目。前作と比べるとキャラクターや設定の紹介が済んでいるせいか、読み物としてこなれが良くなっているし、未だ中途である捜査段階の随所でホーソーンが鋭い推理を見せてくれるので、ミステリとしての興味の持続も強いです。

一方でホーソーン自身の抱える秘密という、シリーズを通したものであろう趣向があるのですが、ホーソーンにそれほどの魅力を感じないため、関心が持てないのが正直なところ。
また、メタフィクショナルな描写も(住んでいる国が違うせいなのか)そこまでのリアリティの訴求はなく、横道に逸れているだけに思えてしまう。

ともかく、当初は単純な怨恨による殺人と思えたものが、過去の因縁などが発覚していき、奥行きを増していく。ほんの限られた容疑者のなかで事態を錯綜させていく手際は堂にいったものだ。

真相は(段階的に明かされていく展開もあって)わかってみればそれほど意外ではない。読んでいてぼんやりと疑っていた可能性のひとつではある。しかし、達者な筋運びで一旦そこから気を逸らさせつつ、最後にはシンプルな推理と明確な根拠で、こうでしかない、と犯人を確定する流れは実に気持ちがいい。
怒涛の伏線回収もお見事で、解答編に至るまでにホーソーンの口から出たヒントの真意、あるいはダブルミーニングがキレキレ。何度も「そういうことか~」と唸らされました。

純粋にフーダニットとしては抜群の出来であると思います。それ以外の要素はまったく気に入らない。
来年には同じ作者による名探偵アティカス・ピュントものの2作目が翻訳されるということなので、期待してはおりますよ。