2021-11-28

Bruce Springsteen and The E Street Band / The Legendary 1979 No Nukes Concerts


昔、海外のフォーラムを見ていたら、ブルース・スプリングスティーンのライヴ・パフォーマンスのピークは1978年だ、という意見が多かったような覚えがあります。'78年といえばアルバム「Darkness On The Edge Of Town」がリリースされた年であり、それをサポートするツアーが年内いっぱい行われていました。
そして翌年になると、スプリングスティーンは次作の制作にとりかかり、ライヴはしばらく行われないようになりました(プライヴェートなパーティ等で3時間、演奏したという記録はありますが)。その1979年でも例外となるのがMUSEベネフィット・コンサート、ノー・ニュークスのイベントで、スプリングスティーンは9月21、22日の二日間に出演しています。この時の音源は公式で配信されていましたが、今回、二日分の演奏を一回のショウのかたちに編集したものが映像とCDのセットで出ました。それが、「The Legendary 1979 No Nukes Concerts」です(このリリースに伴い、二日分のライヴの配信は引っ込められたよう)。
音の方は一部の曲を除いてマルチトラックからボブ・クリアマウンテンがミックス、マスタリングはボブ・ラディックが担当。聴いてみるとそこまでクリアないい音だ、というほどではない。元々の録音の限界でしょう。



単独のコンサートではないので、約90分とこの時期のスプリングスティーンにしてはかなり短い時間にまとまっています。その分、強い曲がばんばん演奏されているのですが、まだ制作中のアルバムから “The River” と “Sherry Darling” が披露されているのは、曲に自信があったからか。
また、元になった二回のセットリストでは本編は同じでアンコール後のみ異なっており、今回の編集では全部の曲目を入れた結果、全体の時間に対するアンコール部分がやたら長くなっています。カヴァー曲ばかりなので、さすがに違和感がある。
肝心の演奏はブランクなど関係ない、むしろ短期決戦なので最初からぶっ飛ばす、という感じの力の入ったもの。ただ、"Thunder Road” のタッチがすこし粗いかな、という印象は受けました。



CDの音だけ聴いていてもいいのですが、やはり映像が付くと違います。もっとも画自体はそこまで綺麗ではなく、これならブルーレイでなくても良かったかな。甘めの映像にちゃんとした音が付くと、ちょっと人工的というか、合成感がありますね。単独の映像作品として売るにはすこしクオリティが足りなかったからCDと抱き合わせたのかもしれません。
もっとも、その辺りは見ているうちに気にならなくなっていきます。”Rosalita (Come Out Tonight)” でのスプリングスティーンとクラレンス・クレモンズの絡みなどは映像があってこそだし、”Jungleland” 最後の叫びの恰好良さといったら。あと、ゲスト(ジャクソン・ブラウン、トム・ペティ、ローズマリー・バトラー)の姿がちゃんと認識できるのは大きい。また、”Detroit Medley” での世界一のパーティ・バンドとしての楽しさなど、結局、夢中になって見てしまうな。

2021-11-06

The Beatles / Let It Be


かなり遅くなりましたが、スーパーデラックスなやつです。
本来は昨年にリリースされる予定だったのが、パンデミックの影響で一年ずれました。その間に中身も変わって、当初はルーフトップ・コンサートでCD一枚ある予定だったのだけれど、なくなっちゃいました。ディズニーに譲ったのでしょうか。

ディスク1はアルバム「Let It Be」のニュー・ミックス。フィル・スペクター版を元にしながら現代的な音にした、といって間違いはない。けれど雰囲気はかなりドライになっている。基本がシンプルな録音だから新たな発見とかはないかな。若干ベースがやかましいけど、オリジナルのアップグレイド版ではなく、そもそも別物としてとらえるなら悪い出来とも思わないです。バンドらしい恰好良さが強調されているのでは。
元々がにっちもさっちもいかなくなっちゃったから、プロデューサーに素材を任せて、これでなんとかして、って経緯でできたアルバムだ。いっそのこと、ベスト・オブ・ゲット・バック・セッションで一枚でっちあげてもよかったかもしれない。怒られるのだろうね。

ディスク2、3はアウトテイク集。ディスク2は “Across The Universe” 以外の「Let It Be / Get Back」収録曲を中心にまとめられていまして、アルバムの別ヴァージョンのような趣。ディスク3では「Abbey Road」収録曲やメンバーのソロになってから発表される曲のごくラフなテイクも収められており、高音質のブートのようではあります。
まったく新しい音源が発見されたわけではないので、そんなに聴いていてテンションが上がることはないです。けどオフィシャルだし、音もいいので機嫌よく流しておけるものになっております、価格のことを考えなければ。

問題はディスク4。すでに話題になっているように日本盤とそれ以外のものでは使われているマスターが違います。日本盤は2019年に作成されたマスター、それ以外の国では2020年製のマスターで、これはどうやら日本側のミスらしいのですが、そのことを日本のユニバーサルミュージックは認めていない模様。
その日本盤では正真正銘の「Get Back」、そのグリン・ジョンズ1969年ミックスが聴けます。わたしが買ったのもこっち。オフィシャル化「Get Back」、それ以上でもそれ以下でもないのですが、何か一応の決定版が出たようで、これだけで長年の課題のひとつが片付いた錯覚があるな。
一方で海外盤は、ファン・フォーラム等によると1969年ミックスを謳いながら実態は‘70年ミックスをベースに、所々’69年ミックスをつないであるもの(”Teddy Boy” に関しては‘70年ミックスが存在しないので、’69年ミックスをそのまま流用)。音質は海外盤の方が良いそうなのですが、表記と中身が違うのは気持ちのいいものではない。まあ、わたしは実際にそちらを聴いてないので、わかんないですけど。

ディスク5は4曲入りEP。なんだ、この中途半端なのは、と最初は謎だったのですが、“Across The Universe” と “I Me Mine” は「Get Back」グリン・ジョンズ1970年ミックスからのもの。つまりディスク4に使わなかった分をこちらに回した、ということになる。
あとは非アルバム曲である “Don’t Let Me Down” と、“Let It Be” のシングル・ヴァージョンのニュー・ミックス。このあたりの基準はよくわからない。だったら他にも入れる曲があるでしょう、と。

最後はブルーレイ。アルバム「Let It Be」のニュー・ミックス及びサラウンド、そのハイレゾです。“Don’t Let Me Down” と “Let It Be” のシングル・ヴァージョンも入れろよ、と思います。
うちにはサラウンド環境がないので、2チャンネルのものしか聴いてないのですが、CDのディスク1と比べるとレンジが広いせいか、こちらのほうが断然、ナチュラルで疲れないすね。聴くならこっちだわ。