2019-03-24

Rupture / Israel Suite/Dominante En Bleu


1973年、カナダ人ドラマーが中心となってフランスで制作したアルバム。オリジナルは少数枚のプライヴェート・プレスだったそうなのだが、権利関係がややこしいことになっているようで、Discogsのレヴュー欄ではリイシュー会社同士でやりあっていて何だか。

肝心の内容の方ですが、大雑把にいうと歌物のヨーロピアン・ジャズ・ファンク。深いエコーが特徴的で、クールなエレピが気持ちよく、スタンダップベースの太い響きも効いている。そこにブラジル的でメロウなメロディが乗っかる。歌詞はフランス語なり。

アナログではA面全体を占める "Israel Suite" は18分余に及ぶ組曲。フュージョンというかジャズロックって感じの演奏はキメもあればフリーでアブストラクトなソロもあるし、オーセンテイックなピアノトリオのようなパートもある。さまざまな局面を見せながら、しかし、歌の部分がしっかりとポップソングで、終盤には結構ドラマティックに盛り上がる。初めて聴いたときはピンとこなかったのだが、この展開を飲み込んでからは良くなってきた。

アルバム後半はコンパクトでわかりやすいものが5曲並んでいる。
ボーカルパートが少ない "Alice Aux Miroirs" は丸っきりフュージョンといって差し支えないものであるし、一方でアコースティック・ピアノが使われた叙情的スロウ、"Entre Ses Cils" はシンガーソングライターものを聴いているようである。
それらの中でも "Mes Histoires Bleues" は疾走感あるジャズファンクで、そこにメランコリックなメロディがはまっている。よく転がるエレピも気持ち良く、どれか一曲というと、これが一番格好いいかな。

クールで都会的なジャズファンクをベースにしながらメロウなポップであり、結果としてプログレとシティ・ポップを縦断してしまっているようでもある。おしゃれフレンチというにはちょっと尖り過ぎていますが、そこもかっちょいい。
しかし、特定のジャンル・プロパーのひとは受け付けないかも知れんね。節操の無いリスナー向けという気はします。

2019-03-09

R・オースティン・フリーマン「キャッツ・アイ」


1923年作品でソーンダイク博士もの。
宝石「キャッツ・アイ」を狙った強盗殺人があり、その犯人たちのひとりを目撃した女性の命も狙われる、というお話。

読み物としては流石に古風です。その中でも大きいのは過去の因縁話と現代の事件を絡めるやり方ですね。ロマンといえばそうなんだけれど、そのセンスからは前時代的な印象を受けます。クリスティ以前、ドイルの時代というね。
また、ヒロインが危険に晒される場面やロマンス部分など型にはまったものでしかないように思いました。物語中盤あたりはだれてしまって、なかなか読み進める気にならなかったのが正直なところ。

一方、ミステリと面はとてもしっかり作られています。ロジックの飛躍には乏しいものの、手掛かりの圧倒的な量もあいまって、こうでしかないという説得力があります。さりげない伏線ではなく、はっきりとした証拠ばかりとあって、力強い。特に物語の序盤に示された手掛かりが決定的な意味を持っていた、というのは個人的にしびれるところであります。
また、フーダニットとしてはたしかに意外性はないけれど、犯人の属性には十分に意外性を考慮した(この時代としては、ですが)ものであると思います。

現在の感覚からすると冗長なのですが、まあクラシック作品を読むようなひとは、むしろそこを愛でるのかな。
実の詰まった力作ではないかと。