2020-04-20

The Third Wave / Here And Now


ちょっと前にホルスト・ヤンコフスキーを聴いた流れで、次に「Snowflakes」というコンピレイションをずっと聴いていました。これは、ジャズ系のレコード会社であった独MPSのカタログ中よりイージーリスニング、ラウンジミュージック的な視点で編まれた二枚組です。内容がとてもよく、今から二十年余り前に出たものだけれど、未だに単体ではリイシューされてない盤からの曲も多く収録されています。
その「Snowflakes」の中で、あれ、こんな良かったけ、となったのがサード・ウェイヴ。昔、ソフトロックが持て囃されていた頃に話題に上っていたグループですが、こじんまりしているし、そこまでのものじゃないな、と思っていて。で、長いこと聴いていなかったのだけれど。
要はがっつりポップスのつもりでなければ良いのでした。

「SNOWFLAKES」、副題は"MOOD MUSIC MASTERPIECES
 FROM THE MPS ARCHIVES"
ここから3分の1をピックアップした日本盤もあるよう。

サード・ウェイヴは十代の姉妹5人からなるボーカル・グループで、その唯一のアルバム「Here And Now」は1970年のリリース。アレンジはジョージ・デューク、演奏も彼のピアノ・トリオが中心になっています。このアルバムにおいてはベースギターでなく、ウッドベースが使われていることが結構大きいですね。
サウンド全体の質感は硬質というかクール。ブラスが入っていてもミックスにおいてはピアノのほうが強調されています。また、線の細い歌声も強化するような加工はあまりしていないように感じます。

アルバム全体としてはポップスとジャズボーカルの中途を行き来するような印象です。
収録曲では "Niki" がもっともコンテンポラリーなポップスに近いつくり。四分音符を刻む鍵盤など、いかにもサンシャインポップという華やかなアレンジが施されています(それでもベースの存在感が強いですが)。
ふたつあるビートルズ・カバーはちょい凝ったコーラス・アレンジもあって、フリー・デザインを思わせるところも。また、"Don't Ever Go" はアコースティック・ギターを生かしたラウンジ風のスローですが、これなどはA&Mレコード的。
それらの一方で、スキャットのみで歌われる曲や、古いミュージカル曲をフォービートで手堅く仕上げたものもあります。
でもって、個人的なベストは変拍子、スキャットコーラスを絡めた "Waves Lament"。木琴、フルート、ブラスのアレンジいずれも良いのだが、これがポップソングとして優れているのか、というと多分違うのよ。

やっぱりフォー・イージーリスニング・プレジャー、ということですね。もしくはモンド・ミュージック。

2020-04-12

フィリップ・K・ディック「タイタンのゲームプレーヤー」


1963年長編の新訳。旧訳で読んでいるはずなのだが、本当に丸っきり覚えてない。だったら新鮮に読めそうなものだが、そうでもなかった。

設定はディストピアものであります。地球はとうの昔にタイタンとの戦いに破れ、その管理化に置かれている(ように読める)。自らの軍事兵器のせいで出生率は壊滅的に落ち込んでいたが、一方で老化を防ぐすべも発見されていた。いずれにせよ、種族としての活力は失われている。
で、殺人事件が起こるのだが、その間の記憶が主人公からは失われていた。

脂の乗っていた時期の作品だけあって、アイディアは豊富だし、予想もつかない展開はスピード感あるものだ。面白いことには間違いない。途中までは。
物語半ばになって、真のテーマが現れ始める。しかし、その接続がうまくない。唐突かつ継ぎはぎ感も強く、辻褄の合わないところが出てくるし、登場人物たちの行動の動機が理解できなくなってくる。そもそも、この組織は何故戦う必要があるのか? とかね、読んでいてもピンとこないのだなあ。ドラマツルギーを成立させるための戦いといった感じで。
ペーパーバックSFというのはこんなものなのか。幕切れも非定型を狙った定型、という印象です。

奇想天外なお話といっても、それなりに説得力というのは必要なのだと再認識した次第。ディックらしさ、だけは横溢していますので、その感触は存分に楽しめましたけれど。この作品はちょっと無茶。