2021-07-04

アレックス・パヴェージ「第八の探偵」


1940年代初めに私家版として作られた短編集「ホワイトの殺人事件集」。25年以上あとになって、それを商業的に出したい、という話が出版者から作者のもとに持ち込まれた。


昨年に英国で出た、新人作家のデビュー作ですね。
「ホワイトの殺人事件集」には七つの短編が含まれており、作中作として本書の300ページ以上を占めています。そして、一編が終わるごとに編集者と作者がその作品についてディスカッションを行う、という構成です。
各短編では殺人事件が起こり、探偵するものがいて、最後には犯人が判明する、という縛りがあるのですが、作風は多彩だし、ちゃんと意外性も備わっています。もっとも、設定はいかにもそれらしいくせに、謎解き小説としては作られていません。伏線不足で、ありうる可能性のひとつを取り上げて、後付けでそれを強化したというものばかり。ただ、物語の結末のつけ方は定型からずらしてあって、ちょっと麻耶雄嵩っぽいセンスです。

一方で、外枠の編集者と作者の会話パート、これが全く面白くない。作中作に何かの謎がひそんでいることがほのめかされていますが、これが引きが弱いというか、同じようなことばっかり言ってんな、と感じました。

まあまあ読める程度の短編と退屈な額縁、その印象ががらっ、と変わるのは全ての短編が語られた後。これは驚きました。嘘でしょ、そんなことする? という。読んできて不出来と感じていた部分にも、そうなる原因(理由とは言いたくないな)はあったのね。
まあ、凄く手が込んでいます。一粒で二度おいしい、というか。手つきはあまりスマートとは言えませんが、その不恰好さも含めて古きよき「新本格」っぽいか。

ケチはいくらでも付けられそうですが、アイディアはオリジナルだし、またこの作者のものが訳されたら読んでみたい、そんな魅力は感じました。