2022-11-12

横溝正史「八つ墓村」


横溝正史作品を読むのは5年ぶりになる。昔、Kindleで「金田一耕助ファイル 全22冊合本版 」というセットをバーゲン価格で購入したのだけれど、そこから3作ほど読んだところで端末が壊れたのだ。
今年になってKindle Paperwhiteを買い直して、そういえば何か持っていたなと思い出し、また読み始めようか、と思った次第。
『八つ墓村』は金田一耕助ものとしては4つ目の長編なのかな。細かいことは良く知らないのですよ、雑誌掲載の順で考えるか、単行本となった時期を基準にするか、ややこしい。

まあ、これも有名作なので細かい説明とかはいらないか。
物語前半は連続殺人事件と現場に残される不可解な手掛かりがミステリとしての興趣を盛り上げる。この部分はこの作品以前の金田一もの長編とも共通するような本格ミステリど真ん中、といった雰囲気。それが後半には洞窟内を舞台にした伝奇的な物語になってしまう。もしかしたらディクスン・カーのロマン作家としての部分を受けたものかもしれない。

ミステリとしては犯人が物語の流れの中でわかってしまう、という点で謎解きとしての結構が放棄されているようなところがある。さらに、その犯人が物語後半になると全く顔を出さない、というのも印象を弱めている。というか、物語の後半になると真犯人への興味がうっちゃられているものね。
もっとも、犯人確定のロジックはとてもスマートだ。さらに、明かされる前半部分に散りばめられていた伏線の数々は面白い。特に僧侶の言動に隠された秘密など意外性充分。そして、事件全体の複雑な構造はクリスティからきているらしいが、クイーンの有名作を思わせる要素もあって、いかにも力がこもったものだ。これらアイディアをもってすれば本格ミステリとして相当なものにすることも可能であったろう。

正直、洞窟内のパートはだれたのですが、解決編はとても楽しく読めました。