2023-01-28

Four Tops / Keeper Of The Castle


1972年、フォー・トップスがモータウンからダンヒルに移籍して一枚目のアルバム。
プロデュースはスティーヴ・バリー、デニス・ランバート、ブライアン・ポッター。ランバート&ポッターはダンヒルといえばこのひとたち、というポップソウルの職人ですな。アルバムの収録曲も半分はこのチームの作曲ですが、残りはフォー・トップスのベース・シンガーであるオービー・ベンスンを中心に作られたものになっています。

サウンドはいかにもLA録音らしい解放感漂うもので、タイトなリズムと華やかなアレンジのバランスも素晴らしい。アルバム冒頭のタイトル曲から躍動するリーヴァイ・スタッブスの声がよく映えるし、バックコーラスも聞き取りやすい。
そして続く "Ain't No Woman(Like The One I've Got)" が都会的でスウィートなミディアム。これがシングル・ヒットして新たなフォー・トップスを印象付けることに成功したのだな。わたしもアルバム中ではこの曲が一番好きです。

また、当時流行りのフィリー・マナーをなぞった曲がスロウの "Put A Little Love Away"、 オージェイズのようなミディアム "Love Music" とあるのだが、管弦のジャズっぽさが薄いからだろうか、本家よりも親しみやすいような感じで、これがランバート&ポッターのテイストなのだろう。

アレンジには曲によってデニス・ランバート、ジミー・ハスケルのほか、ギル・アスキーというジャズ畑のひとが入っていて、これがいい塩梅にバラエティに貢献しているよう。軽快でおしゃれな "The Good Lord Knows" や、小気味良くオルガンが引っ張っていくサンシャイン・ポップ "Love Makes You Human"、いずれもあまりソウル的ではない曲調だけれど、オーソドックスなナンバーの狭間で実に効果を発揮しています。
そして、このセンスがよりソウルらしい曲の中でうまく生きたのが "When Tonight Meets Tomorrow" という、ちょっと凝ったメロディをもつ曲。ニュー・ソウル味も感じる実に洒落た仕上がりで、軽やかでメロウなバックに緩急を利かせたリーヴァイ・スタッブスのボーカルがとても格好いい。

いい意味で大衆的で明るさがある、聴きどころの多いアルバムです。

2023-01-09

エラリイ・クイーン「靴に棲む老婆〔新訳版〕」


1943年長編。
前作『災厄の町』がゆったりと進んでいくリアリステイックなミステリであったのに対して、この『靴に棲む老婆』は逆に振りきったようなプロットで、その複雑さは初期クイーンに戻ったようだ。

舞台はニューヨークであるけれど、物語が展開するポッツ家は『Yの悲劇』のハッター家をアレンジしたような、ちょっとした異世界。どこか世間の常識が通らない、そのことが普通になっている屋敷。そこで起こるのはマザーグースをなぞるような事件だ。語り口もところどころ芝居がかっていて、トマス・ヴェリー部長刑事の科白回しにすら舞台めいたところがある。
肝心の謎も設定にふさわしく、捻ったものであって、なにしろ、実際に銃の引き金を引いて人を殺した男が何の罪にも問われず、他に真犯人がいるというのだから。

あいにく、マザーグースの物語への取り込みはそれほどうまくいってはいない。あとになって取って付けたような感じを受けるもので、捜査側が符合を気にするほどの説得力がないように思う。 また、消えた銃のありかはひとつの見所でありえるのに、わかって見ると肩すかしで、『アメリカ銃の謎』の作者とは思えない謎の扱いだ。

重大な証拠が判明するのが解決編直前なのはパズルとしての弱点だが、それさえ逆手に取ったような解明シーンの盛り上げはさすがのクイーン。推理によってサスペンスが生まれる、その恰好良さよ。
ピースがひとつ入れ替わる、それだけで見えていた図がきわめてロジカルに反転し、また綺麗に閉じていく。このキレこそがわたしにとってのクイーン最大の魅力だ。

物語としての完成度はいまひとつ。けれど、キャリア後期に大きく展開されるテーマを扱いながら、あくまで物証に基づく推理で綺麗にまとめているという点で、やはり見逃せない作品ではあります。
ハヤカワの新訳クイーンも、これで1940年代の長編は全て揃ったので、ひとまずはおしまいでしょうか。