2025-05-18
ベンジャミン・スティーヴンソン「ぼくの家族はみんな誰かを殺してる」
2022年の豪州産ミステリ、500ページと少しある。作品の舞台もオーストラリアなのかは、 読み始めてもすぐにはわからない。
乾いたユーモアを存分に交えた一人称は、ミステリ創作指南の本を書く作家、アーネストによるものだ。プロローグにおいてアーネストは、これから語る自分の体験談がフーダニットのミステリであり、死人が複数出ることや、自分自身が信頼の置ける語り手であることをあらかじめ宣言する。強いジャンル意識の表明のようであるし、あるいは単にひねったユーモアの発露か(本書の扉にノックスの十戒が引かれていることから『陸橋殺人事件』的なスピリットと受け取るのが素直か)。
雪山の中にあるロッジにアーネストの係累が集合する。アーネストは家族から微妙にハブられていて、その理由は今回の一族の集まりとも関係しているようだ。その辺り、家族の間のさまざまな事情や、それぞれが抱えた問題は物語が進むにつれて明らかになっていく。
で、それと並行して殺人事件があるわけですけど。これが、ちょっと意外な感じで起こる。というか、ミステリとしての展開はオフビートなものであって、いかにも現代的だ。
アーネストは物語の視点人物でありながら、所々で読者に直接語りかけてくる。ミステリとしての興趣を盛り上げる面もあるが、ひとによって達者さが鼻につくかもね。
雪山の天候が悪化し続ける中、当然のようにさらなる事件が起こっていきます。家族の秘密と殺人事件の謎が混じり合って、話の行方がなかなか見えてこないのだが。
関係者を一堂に集めた中で行われるアーネストによる解決編は大・伏線回収祭りであって、異様に盛り上がる。謎解きと同時に家族の物語としての面が立ち上がってくるのも大変に素晴らしい。
もっとも、読者が推理できるようになっているのかというと、必ずしもそうではない部分はあるか。犯人確定の手続きも(実は)弱く、余詰めについての考慮がないのだが、驚きに満ちたプレゼンテーションでうまくもっていっている。
古典的な骨格のパズラーかと思ったらちょっと違いましたが、めちゃめちゃ楽しみました。
ところで第一の犯行時刻はどうやってわかったのだろう、後から説明されるのかと思ったのだけれど。わたしは何か読み飛ばしたのかしら。
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