2025-10-12

アンディ・ウィアー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」


2021年長編。
とりあえず前知識を入れずに読むのがいい、と聞いたので本当にそうしてみました。といっても、カバー絵を見れば宇宙を舞台にしたものなのだろうな、ということくらいは見当がつく。
また、本のはじめには口絵がついていて、ああ、これの話なのね、ということもわかってしまいます。
物語はひとりの男が目を覚ますところから始まる。

展開に肝がある上に、早川の公式でネタバレ禁止とあるようなので、具体的なことは書けませんが、かなりがっちりとSFですね。米国産らしいユーモアをたたえた語り口調で和らげられていますが、結構歯ごたえがある。
とある重大な使命を帯びた主人公が、当然のように何度も苦難に直面、それらを己の知見に照らし合わせて科学的に検証・解決していく過程がとても面白いです。けど、それら問題のハードルが高い分、じっくり読まないとついていけません。
また、現在進行形の物語と並行して、主人公の過去が徐々に明らかになっていくのですが、しっかり書き込まれた過去パートによって、彼の関係するプロジェクトのスケールの壮大さがどんどん補完されていきます。
さらには作品の様相が、がらりと変わる瞬間があって「えっ、こういう種類のSFだったの」との驚きも。

大風呂敷の上にアイディアてんこ盛りにして、手に汗握る要素も十分。最後のほうまで気を抜けない。加えてビルドゥングス・ロマンとしての面も(実は)あるなど、エンターテイメントとしても作り込まれています。
読み終えてみればSFの王道のような印象が残りました。面白かったです。


以下、作品内容とは直接関係ないことを。
わたしはミステリファンなので、この主人公の状況からすると、この男は本当に自分で思っている本人なのか、他の人物の記憶がインストールされつつあるんじゃないか、などと妄想してしまうのだ。あるいは、アンドロイドという可能性も。ふつうに考えると台無しなのだが、ミステリ世界におけるSF設定というのはガバガバであることが多いので、そういうことが平気で成立させてしまう。 この作品はちゃんとしたSFなので、そんなはずはないのだけれどね。