2018-12-22

G・K・チェスタトン「奇商クラブ」


1905年発表、チェスタトンのキャリアでも初期の連作短編集、その新訳。
タイトルの奇商、というのは原題では「Queer Trades」で、奇妙な商売ってことである。入り組んだロンドンの市街に存在するという会員制の「奇商クラブ」、その入会条件はこれまで誰もやっていないし、既存のものの応用でもない商売で生計を立てている、というものだ。
物語の中心となるのは発狂した元判事のバジル・グラント。彼の友人である語り手と、半ば趣味で探偵をやっているグラントの弟がその他のレギュラー・キャラクターである。

各編において、どのような商売がひそかに営まれているのか、というのが読者にとっての謎ではある。しかし、作中人物たちはそういったことについては意識していないのだ。犯罪を匂わせる奇妙な事件に首を突っ込んで(あるいは巻き込まれて)いるうちに、お話のなりゆきでその商売が明らかになるという構成である。それぞれの真相は趣向を凝らしたものだが、グラントがどうした過程を踏んでそこに辿り着いたかは説明されないので、謎解きの興趣は薄い。
一方で、陰惨な事件は起こらないので、読後感は明るい。その奇抜な展開も逆説として捉えるより、ユーモア小説のそれと受け止めたほうがお話としては飲み込みやすい。

収録された6作のうち、前半の3作がそのへんてこな商売や愉快なプロットでストレートに読めるものになっている。後半になるとチェスタトンならではの世間離れしたロジックが出始めていて、「おお、来たな」と思わされるのだが、チェスタトンの作品に親しんでないひとが読んだらわけが判らないかもしれない。
中では、「牧師さんがやって来た恐るべき理由」が特に良いです。馬鹿馬鹿しいお話にリアリティを持たせる説得力のある語りが魅力的。実に人を喰った展開も楽しい。

チェスタトン流〈日常の謎〉というか。これもチェスタトンしか書けない類のお話ですね。軽めではあるけれど、面白かった。

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