2026-05-17
法月綸太郎「法月綸太郎の不覚」
本当に久方ぶり、法月綸太郎の小説としての新刊は、雑誌掲載の短編3作に書き下ろし中編ひとつの作品集です。
「心理的瑕疵あり」
いわゆる事故物件と呼ばれる住宅を舞台にしたフーダニット。序盤のちょっとした描写から手掛かりになっているガチガチの本格で、なおかつ「犯人はなぜ〇×したのか?」と、わかりやすく推理のポイントを差し出してくるが、正解に辿り着くにはちょっとした発想の飛躍が要求されるだろう。結構、複雑な構図を持つこの作品が、犯人当て小説として発表されたというので驚き。なお、タイトルは推理のきっかけか何かを指しているのかと思ったら、そうではないらしい。
「被疑者死亡につき」
交換殺人の疑いを掛けられた男から、綸太郎に容疑を晴らして欲しいと相談が持ち込まれる。そして、その交換殺人の相方と目される人物が自殺しているというのだから、一筋縄ではいかない。こちらも犯人当てとして書かれたらしく、手掛かりの面白さは申し分ないものだが、事件の隠れた構図を見定めるのはやっかいだ。結末はこの作家の趣味が出たもので、一層とややこしいものになっています。
「次はあんたの番だよ」
殺人事件の容疑者には鉄壁のアリバイがあった、というお話だが、そこに幽霊話が絡んでくるというのだから、こいつも素直にいきそうではないな。リアリステイックなスタイルで書かれていながら、「お前は何を言っているんだ」といいたくなる展開が。ある気付きを起点にしたロジックに乗っかっていくと、思いもしなかった結論まで連れていってくれます。
「平行線は交わらない」
80ページと少しある、とても手の込んだ中編。キレキレの仮説が立てられるが、いささか先走りすぎか、と思いきや。解決に至って、あるミステリ趣向が隠れていたことが明らかになる。この作者の過去作に馴染んできた読者には懐かしいテーマであり、あれをこう処理できるのかという感慨があります。また、この「平行線~」のみ書き下ろしなのだが、それまでの作品がフリにもなっていて、これ単独で読むとちょっと受け入れられないかもね。
歯応えは抜群だが、いずれの作品もプロットがやや複雑過ぎるか。シンプルで切れのいいものがひとつ欲しかったか。論理のアクロバットをこじらせたような、唯一無二の作品集でありました。
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