タートルズがWhite Whaleに残したカタログは過去にはSundazedやRepertoireといったところから再発されましたが、近年は結構長いことデッド・ストックの状態が続いていました。それが、最近になってマスターテープの権利をフロー&エディが獲得したそうで、とうとう「The Complete Original Album Collection」と「All The Singles」としてまとめてリリースされました。このふたつのセットがあれば、とりあえず曲単位では一通り揃うよう。
なお、マスタリングにはなつかしやビル・イングロットの名もクレジットされています。
「The Complete Album~」では6枚のアルバムのうち最初の3枚をモノラル&ステレオで収録。特にアルバム「Happy Together」のモノラル・ミックスは初デジタル化ではないでしょうか。そして、モノラルが無い残りの3枚はステレオ・ミックス+ボーナストラック、という構成で、未発表トラックも少しはあります。
ただ、この「The Complete Album~」、ブックレットはついているけれど、細かいレコーディング・データはおろか、作曲クレジットさえ載ってないのが残念。
ライナーノーツそのものはしっかりと書かれた文章ですが、やけに字がでかい |
そして、「The Complete Album~」に入りきらないシングル・オンリーの曲は2枚組の「All The Singles」で、というわけ。'60年代のシングルなので多くはモノラル・ミックスです。そのうちにはアルバム収録されたのとはヴァージョンが違うものがあるほか、リリースが予定されながら中止になったものや、別名義で出された曲もありますし、各ディスクの最後にはシークレット・トラックなんかも。
さらに、こちらのブックレットは一曲ごとにデータや解説、メンバーのコメントが記載されていて、読み応えがあります。初期のB面曲について、これはキンクスを真似たものだ、とか、これはデイヴ・クラーク・ファイヴの線だね、なんてはっきり言っているのが面白い。あと、"Happy Together" のプロデューサーにはジョー・ウィザートがクレジットされているけれど、実際の制作に貢献したのはチップ・ダグラスだ、とか。また、キャリア末期になると会社が独断でシングルを切ってしまうなど、いかにも混乱した状況だったことが伺えます。
この「All The Singles」を聴いていると、その時代の流行を自分たちのスタイルとしてうまく消化していった彼らのサウンドの変遷がよくわかります。フォーク・ロックのグループとしてスタートしながら、やがてボナー&ゴードンと出会い、より洗練されたポップ・レコードを作るようになっていく。そして、ディスク2の冒頭を飾る "Sound Asleep" からはシングルA面も自作曲になり(ヒットは少なくなるのですが)、音楽的にはサイケデリックな要素を強めていくという。
ところで、マスタリング・エンジニアのスティーヴ・ホフマンは自身の主宰するフォーラムで以前から何度も、"Happy Together" のモノラル・シングル・ヴァージョンは世界最高のミックスだ、と主張しているのですね。しかし、それを聴こうにもなかなか手に入らなかったわけで。かつてRepertoire製「Happy Together」CDのボーナス・トラックには "Happy Together" のオリジナル・モノ・シングル・ミックスと書かれているものが入っていたのだけど、実はそれはステレオ・ミックスからのフォールド・ダウンだったのだ。
今回、リアルなモノラル・ミックスを聴いてみるとなるほど、世界最高かどうかはわからないけれど、ステレオ・ミックスよりもダイナミクスに優れていて、スケール感のある仕上がりかも。