ポール・アルテのもので未読だったのを一冊、読みました。正式デビュー前に書かれた中編「赤髯王の呪い」と、短編が三つ収録。すべてツイスト博士もの。
「赤髯王の呪い」はもともとフェル博士を探偵役に書かれた作品だそうで、なるほど、不可能犯罪やおどろおどろしい伝説等、初期のディクスン・カーを思わせる非常に力の入ったものであって、つまりアルテの基本スタイルはデビュー前から変わっていない、ということですね。
後の長編作品に劣らないくらいにアイディアてんこもりである上、メインのトリックもカーのある有名作を彷彿させるもので、いちアマチュア作家の「おれはカーのようなミステリを書きたいんだ!」という熱気が作品全体から伝わってきます。この迫力は処女作のみが持ちうるものでしょうか。ちょっと彼の他の作品からも得がたい魅力です。
また、物語の閉じ方はひとひねりあって、フランスらしい心理ミステリという感も。
短編の方は、どれも限られた紙幅に不可能犯罪と合理的な解決を押し込めたもので、そうすると所々無理が出るのは仕方ないか。特に動機は「そんな理由で人を殺すか?」というようなものであります。ひいき目で見れば、黄金期のミステリを読んでいるようで、かえって快いですけどね。
あらためて、アルテは日本の新本格とシンクロしているようだ、という感を持ちました。
作風にぶれがない、ということも確認。
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