2009-07-05

松本寛大「玻璃の家」


島田荘司が選者を務める「福山ミステリー文学新人賞」の第一回受賞作。

島荘先生の言葉を借りると「『相貌失認(そうぼうしつにん)』という、人相を把握できない珍しい脳の障害を得た目撃者、コーディ少年が、心理学者とともにいかにしてこの障害を乗り越え、犯行者を発見していくか」というお話。


舞台はアメリカ、ニューイングランドのさびれかけた町。廃墟となっている屋敷に潜り込んだコーディ君が、死体を燃やしているところを目撃してしまう。事件としてはそれだけです。

コーディ君は犯人の顔を見ているのだけれど、それをうまく認識することができない。心理学科の研究員、トーマはコーディ君の目撃者としての能力を計りつつ、証言の信憑性について判断を下さねばならない。

実際の事件の捜査は警察に地道な聞き込みによって絞られていくものであり、そこにはミステリらしい飛躍はあまりありません。関係者は限定されていき、結構早い段階で犯人はわかってしまいます。しかし、証拠がない。踏み込んだ物的調査をするにはコーディ君の証言が必要なのですね。


そうした捜査の描写の合間に、舞台となった屋敷にまつわる過去の出来事が語られます。17世紀の魔女狩り、屋敷内のすべてのガラスを取り除いてしまった奇妙な男、打ち捨てられた後の屋敷でラリっているうちに死亡したヒッピー。それらと現代の事件との繋がりが次第に明らかになっていき、物語が広がりをみせていく。


文章は新人とは思えないくらいしっかりしているのですが、反面実直すぎてケレンがなく、ミステリとしてはどうかな、と思いながら読んでいました。事件の捜査をしてるのは警察で、探偵役らしいトーマはコーディ君の能力を調べてるだけだし。犯人バレてるし。

それが解決編に至り、怒涛の勢いで仕掛け・トリックが明らかにされていくので、この変化には驚きました。それまでリアリスティックな捜査小説だったのが、一気に本格ミステリとしてのスケール感が爆発していきます。逆に、この最後の部分だけに目一杯詰め込み過ぎたため、物語全体として割りを食っている感じも。


地味な展開と派手な解決のバランスがあんまり良くない、という印象は持ちましたが、新人離れした構想力と小説のうまさがある、というのは間違いの無いところ。

ただ、巻末に挙げられた心理学関係の参考文献の量も半端ではなく、このスタイルだと量産は効かないだろう、という気はします。

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