「ぼくにはまるで探偵小説みたいに思えるな。ほら、殺人者が自分から名探偵のもとに駆けこんで、事件を引き受けてほしいと頼むようなやつさ。結局、そいつが殺人犯であり、同時に底なしの間抜けでもあることを証明するだけなんだけどね」(203ページ)
昔、国書刊行会から出たものの文庫化で、僕も再読なのですが、バークリイの作品は筋が込み入ってるものが多いので、この作品も細かいところは忘れていました。
『ジャンピング・ジェニイ』は探偵役が奮闘する様が道化にしか見えないという、ジャンルに対する皮肉な視点がこの作者ならでは。特に、ある被疑者にかけた容疑がそのまま探偵自身にも当てはまってしまう展開など、すれたファンでも悶絶ものであります。
ミステリの構成的に見ると多重解決、ということになりますか。結末は予想もしていない驚きもので、流石、と言いたいところなのですが、充分な伏線も無く唐突に出されるものであり、説得力がない。後付っぽいこのやり方ならいくらでも出来るじゃない、とも思ってしまいます。従来のミステリに対する批評性だけが突出してしまったような印象。
10年くらい前、バークリイの未訳作品が次々と紹介され始めたときのミステリファンの反響は、そりゃあ大したものでした。個人的にも英国探偵小説の隠れた大物として、この作家のセンスはクリスチアナ・ブランドあたりと同等なんじゃないか、なんて思っていたものです。
しかし最近では、それはちょっと違うのかな、このひとは本格ミステリのコアな作家ではないのかな、という風に考えています。抜群のテクニックと新しいコンセプトを持ち合わせていたのは確かですが、技巧に溺れるあまりミステリ本来の面白さを犠牲にしているような感があるのです。結局、やりたいことが違うのだ、と。
ミステリファンとしては、あんまり読者を見くびるなよ、と言っておきたいところ。
とは言っても、読んでいる間は滅茶苦茶面白かったのですが。今月末に出る『毒入りチョコレート事件』の再刊も買ってしまうでしょう。本当に面倒臭い作家ではあります。
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