1946年発表、フランス産本格ミステリ。作者は英米の探偵小説を読み漁り、その影響下でこの作品をものしたそうであります。実際、これでもか、というくらいにアイディアが詰め込まれていて、その密度が凄い。「読者への挑戦」まで用意されてるんですから堪えられません。
ポール・アルテより濃いですよ、こりゃあ。
複数の警官がつきっきりで見張っている状態で、ダイヤモンドが偽物にすり替えられるという、かなりの不可能犯罪が起こるのですが、その他にも監視下における消失事件などが用意されております。
基本はガチガチの謎解きミステリながら、さらにサスペンスを演出する場面など色々盛り込みすぎるあまり、小説としてのバランスはあんまり良くないかな。なんか、ごたごたしてる感じ。
ただ、語り口は軽やかかつユーモラスで、全体にすいすい読めてしまうのはいいですね。
また、作中にミステリ小説というジャンルに対する自己言及的なやりとりも ありますが、これもアントニィ・バークリイのような批評性から来るものではなく、純粋にアマチュアリズムから出ているもののようで微笑ましいです。
解決部分は複数の人物が自説を開陳していく、という流れのもので、それまで目立たない端役のようなキャラクターまでが結構鋭い推理を展開していきます。ここら辺、にやにやしてしまう趣向ですし、レベルも高いです。
でもって、メインのトリックが豪快で。かつての日本新本格のような、実現可能性はどうだろう、というような手の込んだもの。強力な謎に対して充分応えるだけの大技であります。
探偵小説ファンなら読んで損は無いですね。300ページほどの本ですが、満腹。
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