「まだ駆け出しに近いミステリ作家」有栖川有栖(34)は、対談をした売れっ子ホラー作家の自宅に招かれる。聞けば、そこで寝ると必ず悪夢を見るという部屋があるというのだが・・・・・・。
作家アリスものの新作はきびきびとしたフーダニットであります。
犯人はこともあろうに弓矢の矢を使って殺人を犯し、その上で被害者の体の一部を切断して持ち去った。有力な容疑者が浮かび上がるものの、その足取りには不可解な点が。そして更なる意外な展開も、という風にいかにもミステリ的な趣向が盛られていて、目がくらまされる。そのせいか、容疑者たちのアリバイが検討されるのはなんと物語の3分の2ほどを過ぎてからである。
「凶器の弓矢。切られた右手首と左手首。血染めの手形。落雷で倒れて道をふさいだ大木。空き家の地下収納庫で見つかった死体。大音量のベートーヴェン。渡瀬信也の過去。沖田依子が捜していた何か」
材料は多いがそれらがどう組みあげられるのか。
終盤に至ってようやく重要な証拠品の数々が発見されるが、それらにも奇妙なところがあって、一向に全体像が見えてこない。
解決は実に予想外なタイミングでやってくる。このあたりの呼吸はいつもながら巧い。弛緩と緊張というか。
全てのピースが収まるべきところに収まる、その筋道も実にねちっこく、かつ意外な手掛かりが楽しい。中でも切断された手首を巡るくだりはまさにクイーン流で、
『エジプト十字架の謎』中盤の推理を髣髴させます。
弛みなく構成され、力のこもったパズル・ストーリーでした。満足です。
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