2017-11-05

ジョン・ディクスン・カー「絞首台の謎」


1931年のアンリ・バンコランものであり、カーにとって長編二作目、その新訳です。

ロンドンのクラブに滞在するエジプト人は何者かに命を狙われていた。彼の元に犯行を予告するかのように絞首台のミニチュアが送られ、密室状態の机上には縊られた人形が出現。そして、ついに行方不明になってしまうのだが、その際には死体を運転席に乗せたリムジンがロンドン市街を暴走するのだから、いかにも扇情的。また、首切り役人を名乗る犯人が警察を挑発と、怪奇性がどぎついかたちで表現されています。
さらには古代エジプトの呪いまで盛り込もうとしているのだが、これはさすがに効果をあげていないか。

ロンドン中に立ち込める霧が印象的であり、これが時間や場所の感覚を曖昧にすることで謎の余地が生まれています。
バンコランはどうやら物語中盤で既に真相に到達してしまうようなのですが、この段階では不可能状況や犯人についてはっきりと語らず(当然ですが)、周辺の謎を解明するにとどまっているのが読んでいても煮え切らない。
そのかわり、ある登場人物が結構、あなどれない推理を披露してくれます。バンコランにばっさりと否定されてしまいますが、これは真相を知ってから振り返るとなかなか面白い。

その真相なのですが。あまり誤導が効いていないために犯人にはさほどの意外性はないか。また、事件を不可解に見せていた要素(もっとも、作中ではあまり強調されていませんが)についても、やや肩透かし。しかし、大量の伏線が回収される解決編は充分に読み応えがありました。
そして、絞首台が再度クロースアップしてくる結末は強烈です。

作家としてまだこなれていないせいか、ごたついてはいますが、まずまず面白く読めました。

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