2018-08-04

カーター・ディクスン「九人と死で十人だ」


本来は客船であるエドワーディック号は、戦時下ということでありニューヨークからイギリスへ軍需品を運ぶ任務も担っていた。その途上である女性客の喉が掻き切られる殺人事件が発生、被害者の衣服には犯人のものと思しい血染めの指紋が残されていた。早速、乗船している全員から指紋を採取、照合が行われる。しかし、その結果、一致するものが見つからなかったのだ。勿論、海の上であり外部から船への出入りは不可能だ。犯人はいるはずのない十人目の乗客なのか。


1940年、 ヘンリ・メリヴェール卿もの。
『盲目の理髪師』同様、船上ミステリです。もっとも、『盲目~』がまるっきり喜劇であったのに対して、全体に戦争の影が大きく落ちておりシリアスな雰囲気です。ところどころにふざけたやりとりがあって、いいスパイスにはなっていますが。
ミステリとしては指紋の謎が当初よりもずっと大きなものになっていくのが良いです。まず、化学分析により作り物ではなく実際の人間の指から付けられたものであることが事実として証明される。また、偽装だとしたら、そもそもクローズドサークルでそんなことをする目的が理解できない、となってしまう。しかし、船内に隠れている人間などいないのだ。
そうしているうちにさらなる殺人が起こる。

指紋の謎の解決には正直、拍子抜けの感を受けました。そんなことが出来るのかな、みたいな。しかし、フーダニットとしては非常に良く出来ています。ごくシンプルなトリックが絶妙な演出によって見え難いものになっている。戦時下であることが実にうまく機能しているのも素晴らしい。

分量からして軽量級ですが、すっきりとして切れのある出来栄えです。この時期におけるカーの美点が良くわかる作品ですね。

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