22世紀、世界は脳の突然変異で高い知性を持つ〈新人〉と超能力者である〈異人〉が支配、エリートである彼らと残りの人類〈旧人〉の間にはっきりした階級社会が形成されていた。その〈旧人〉たちの救世主たる男、トース・プロヴォーニは〈旧人〉たちが暮らすための新惑星を見つけるべく単身、深宇宙への探索へと出て行ったきりであった。
1970年長編。
勢いに乗っていた時代の作品だけあって、序盤で物語にすぐ引き込まれるし、設定もすごく面白そうではある。また、ディック作品ではおなじみ、まやかしの現実というモチーフがここでは中心に置かれていないため、とても読みやすい。
しかし、ディストピアとそこからの解放というシンプルなテーマ、ご都合主義的な展開も明らかにそこに沿っているように見えたのだが、個々人の欲望と情動によって、いつしか物語は勝手な方向に向かっていく。そしてディック作品ではよくあることではあるけど、色んな問題は未解決なまま、みせかけの奇妙な平安に帰着する。
物語前半に出てきた重要そうな人々やアイディアが後半には登場しなくなるし、キャラクターの一貫性にも乏しい。なおかつ、印象的な場面は多いのだ。ちゃんとしたプロットを立てずに思いつきで話をつないでいったようである。間違いなくファン向け。
そしてファンなら最終章での会話を読んで、この作品を受け入れてしまう。困ったものだ。
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