2013-05-01

エドマンド・クリスピン「列車に御用心」


エドマンド・クリスピンには二冊の短編集があるそうで、うち本書『列車に御用心』は生前にまとめられ、〈クイーンの定員〉にも選ばれたものです。
クリスピン自身による序文においてフェアプレイの謎解きが謳われていまして、こういうのは嬉しいですね。

収録されているのは16編、うち2編を除いた全てがジャーヴァス・フェン教授を探偵役にした作品です。20ページもないようなものが殆どでありますが、それでもしっかりとしたミステリとして構成されているのは、省略を効かせるのが非常にうまいからでしょう。
また、謎が解けることで隠れていた人間性が浮かび上がるようなものが多いので、分量以上の読み応えを感じました。


特に良いと思ったものをいくつか挙げますと。

「列車に御用心」 駅に停車した列車がいつまでたっても再出発しない。どうやら運転手が消え失せてしまったようなのだ。更に、列車内には強盗犯も潜んでいるらしい。駅は警官たちによって包囲されていたのだが・・・。
不可能犯罪を正攻法で扱いながらスマートに解決したもの。ユーモラスな味付けのなかにも伏線が潜んでいて、本格ミステリとしてはこれが一番いいかな。

「すばしこい茶色の狐」 何者かがフェンの所有するタイプライターで脅迫状を書いていた。その尻尾を掴もうとした矢先に殺人が。
錯誤を導く手際がすばらしい。プロットも手が込んでいて、推理そのものの醍醐味が味わえる一編。

「喪には黒」 被害者を殺害現場まで運んできたはずの車は袋小路で消失していた。
一点の虚偽でもって全体を覆う技巧が冴えています。チェスタトン的と言えそうな奇妙な手掛かりも好み。

「ここではないどこか」 殺人事件の犯人は明らかなようだった。しかし、彼には自分と敵対するものによって保障されるアリバイがあったのだ。
捜査に好都合であるように見えた状況が実は思いがけない意味を持っていた、という構図の逆転が抜群。皮肉な結末もうまいな。

他にも、「小さな部屋」では結末の切れが米国産クライム・ストーリー風に決まっているし、「窓の名前」はディクスン・カーに挑戦した(?)密室もの。
また、ノンシリースの2編も良いです。「決め手」は謎解きの形はとっていないけれど意表を付く展開に驚き。最後の「デッドロック」は40ページほどと本書のなかでは一番長いもので、青春小説としての味わいと複雑な真相を両立させようとした意欲作。


謎解き以外にもっと余分な遊びとかが多いのでは、と僕は勝手に想像していたのだけれど、いやいや。
粒揃いの贅沢なミステリ短編集でありました。お勧め。

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