2020-12-06

アンソニー・ホロヴィッツ「その裁きは死」


元刑事ダニエル・ホーソーンものの二作目。前作と比べるとキャラクターや設定の紹介が済んでいるせいか、読み物としてこなれが良くなっているし、未だ中途である捜査段階の随所でホーソーンが鋭い推理を見せてくれるので、ミステリとしての興味の持続も強いです。

一方でホーソーン自身の抱える秘密という、シリーズを通したものであろう趣向があるのですが、ホーソーンにそれほどの魅力を感じないため、関心が持てないのが正直なところ。
また、メタフィクショナルな描写も(住んでいる国が違うせいなのか)そこまでのリアリティの訴求はなく、横道に逸れているだけに思えてしまう。

ともかく、当初は単純な怨恨による殺人と思えたものが、過去の因縁などが発覚していき、奥行きを増していく。ほんの限られた容疑者のなかで事態を錯綜させていく手際は堂にいったものだ。

真相は(段階的に明かされていく展開もあって)わかってみればそれほど意外ではない。読んでいてぼんやりと疑っていた可能性のひとつではある。しかし、達者な筋運びで一旦そこから気を逸らさせつつ、最後にはシンプルな推理と明確な根拠で、こうでしかない、と犯人を確定する流れは実に気持ちがいい。
怒涛の伏線回収もお見事で、解答編に至るまでにホーソーンの口から出たヒントの真意、あるいはダブルミーニングがキレキレ。何度も「そういうことか~」と唸らされました。

純粋にフーダニットとしては抜群の出来であると思います。それ以外の要素はまったく気に入らない。
来年には同じ作者による名探偵アティカス・ピュントものの2作目が翻訳されるということなので、期待してはおりますよ。

0 件のコメント:

コメントを投稿