2021-08-23

エラリー・クイーン「消える魔術師の冒険 聴取者への挑戦IV」


3年ぶりとなる飯城勇三編・訳のシナリオ集でありますが、いいのがまだ残っているや否や。
今回、収録されているのは雑誌などで活字化された作品ではなく、ラジオドラマの脚本から直接、起こしたものだそう。で、その脚本は中国の熱心なクイーン・ファンより飯城氏に提供されたものということです。しかし、権利のクリアとか大変そうだ。

作品そのものには、パズルとしてはシンプルなのに難問、というものが多い。伏線が少なめで、一か所のほころびから突破、という感じです。ようは何気にハードコア。
以下、簡単な感想をば。


「見えない足跡の冒険」 雪密室、見えない足跡もの。トリックそのものはありがちなものだが、盲点を作り出す手際が素晴らしい。じっくり状況を検討するとばれるのだろうけど、ラジオドラマのフォーマットでこれをやられると、ちょっと気づけないのではないか。本書の中ではこれが一番ミステリとして力がこもっているように思います。

「不運な男の冒険」 変化球のプロットが面白くて、ちょっと法月綸太郎風(逆だが)。容疑者が少なすぎるため、可能性は限られているのだけれど、そのなかで意外性を演出し得た作品だと思います。

「消える魔術師の冒険」 人間消失トリックそのものを中心に据えた作品だが、謎解きとしてはあまりたいしたことがない。それでも導線は丁寧につくられているし、軽くて読後感の悪くないパズルとして、クイーン後期短編にも通ずる味わい。

「タクシーの男の冒険」 センセーショナルな導入が魅力的ながら、以降は手堅いフーダニット、と思わせて実は、という作品。意外性が肝であるけれど、何しろ手掛かりが少ない。サイズに無理があって、説明不足の印象を受ける。

「四人の殺人者の冒険」 悪党四人のうち誰が手を下すことになったのか? 前半に倒叙パートが挿入された構成はそそられるが、その部分には伏線がないので、いまひとつパズルとしてはこぢんまりとした感。

「赤い箱と緑の箱の冒険」 色覚異常が犯人のヒントとなる作品で、これは確かに既視感があるな。多段推理の妙が楽しく、エラリーによる解決はいかにもクイーンらしい捻りが感じられて、これには満足しました。

「十三番目の手がかりの冒険」 ブロードウェイのサイドショウという、見世物小屋の寄り合いのような場所で、たいして価値のないものばかりの盗難が続き、ついには死者まで。
本書の他の作品がみな30ページほどなのに対して、この作品は倍の分量があります。背景がちゃんと描かれ、キャラクターも多い。プロットに起伏があり、ミステリとしても複数の謎が盛り込まれていて、読み応えがあるものになっています。
そうは言っても、純粋に謎解きとして見ると、そこそこなのですが、犯人確定につながる手掛かりにはクイーンのパターンがはっきり出ていてファンにとっては面白い。


もう一冊分、素材はあるそうですが、出るかなあ?

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