2022-02-20
Kellee Patterson / Maiden Voyage
インディアナ出身の女性シンガーによる、Black Jazzから1973年にリリースされたファースト・アルバム。
物凄くざっくりいうとジャジーでポップなボーカル盤で、録音はLA。
編成はピアノ・トリオ+フルートで、ピアノは曲によってアコースティックだったりエレクトリックだったり。派手なソロをとったりはしないけれど巧くて、かつ締った演奏で、特にドラムが気持ち良いんですよね。一体どういうひとが叩いているのかしら、と目を通したパーソネルにはジャズ畑らしいのだが馴染みのない名前がずらり。しかし、何故かドラマーだけ表記がない。クレジットされていないということは、逆に名の通ったセッションのプロなのかもしれないが、なんせ好いドラムです。
主役であるケリー・パターソンさんの歌声は綺麗なソプラノ。ビブラートもぎりぎり邪魔にならない加減かな。
惜しいのが録音、というか空間が狭い。その生々しさが合っている面もあるが、もう少し奥行があれば、と思う。クリアに録られてはいるものの、曲によってはなんだか、こじんまりした印象を受けてしまう。その辺りがジャズの制作者たるところなのだろうけれど。
このアルバム、先にも書いたように演奏しているのはジャズ・ミュージシャンで、スロウな曲ではそれが分かりやく反映され、逆にミデイアム以上のテンポになるとポップ寄りというか、ジャズらしさはあまり感じなくなる。
ポップに振ったものの中でも、一曲目の “Magic Wand Of Love” がとてもキャッチー。要はテンプス&スプリームズのヒット “I’m Gonna Make You Love Me” の歌いだしのメロディを頂いたような曲なのだが、これなどスタンダップ・ベースをエレクトリックにして、ストリングスを入れたら普通にシングル・レコードとして通用しそう。
また、“Soul Daddy (Lady)” はドン・セベスキーの “Soul Lady” の改題作(ついている歌詞が誰によるものかはちょっとわからない)で、ファンキーで軽快なアップ。フリップ・ヌネイス作である “See You Later” はラテン・パーカッションが効いた跳ね気味のミディアム。両曲ともボーカルにはソウル的な臭みがなく素直な歌唱のため、あくまで都会的なポップソングとして仕上がっています。
演奏面でハイライトと言えそうなのがタイトル曲 “Maiden Voyage”。ハービー・ハンコックのあれです。ミディアム・スロウながらびしびしと決めるドラムや緩急の激しいベースに迫力があって恰好いい。メロウな感触も残しつつ、ここではトランペットも加わって緊張感を掻き立てられる。
そして、アルバムの最後に置かれた “Be All Your Own” が個人的にはベストになります。凛とした佇まいのボーカルと繊細な演奏のバランス良く、メロディにもフックがありとても良くできている。終わり良ければ全て良し、アルバム全体で30分もないので、もう一度アタマから聴きたくなる。
全体に落ち着いたテイストであって、クロスオーバー・イレブンとかでかかっていそう。
ミディアムもしくはアップとスロウ曲が交互に配され、しつこいところもなく通して聴くに適した一枚です。
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