2022-03-13
ジョン・ディクスン・カー「連続自殺事件」
スコットランドの古城にそびえたつ塔、その最上階にある部屋の窓から当主が転落、死亡した。部屋の扉は内側から厳重な鍵がかかった状態。一方、故人は死の少し前に相当な金額の生命保険に加入していたのだが、当然、自殺では保険金はおりない。さらには転落した前の夜、彼に恨みを抱く人物との口論もあったという。
1941年作のギデオン・フェル博士もの。旧訳である『連続殺人事件』は大昔に読んでいるので、設定には何となく覚えがあるのだが、そのほかはあまり印象に残ってないのだな。
中心にあるのは「自殺か他殺か」というシンプルな謎で、他殺なら不可能犯罪となる。塔にまつわる気味の悪い言い伝えや亡霊めいたものの目撃もあるのだが、それらによる味付けは控えめで、むしろ作品全体に明るいユーモア味が強い。ダレ場もなく、カーにしてはすっきりした読み物になっています。
作品中盤過ぎで明かされる塔の部屋で行われたトリックは実現性に乏しいものだ。しかし、これを殺人トリックとしてむき出しで使うのではなく、奇妙なシチュエイションを作り出すために使うことで大きな効果が上がっている。結果、トリックが判明しても状況が大きくは変わらず、ミステリとしての緊張が持続する。
トリック単体での新規性ばかりに気がいっていた若い時分には、この良さがわからなかったのだなあ。そのトリックをいかに生かすか、がとてもうまくできている。
後半に入ってさらなる難事件が起こるのだが、逆にそれが手掛かりとなって犯罪全体の構図が明らかにされる。このロジックが気持ちいい。
そして、残り20ページほどになって指摘される犯人は意外性充分。下手をすれば拍子抜けになる寸前の塩梅で、伏線もしっかりしていて、これもうまい。
最後に物語を収束させるべくフェル博士によってあることが提案されるのだが、ここで物語の舞台をスコットランドにした本当の意図がわかるのだなあ。いやあ、恰好いいねえ。
重量感こそないけれど読みやすさと意外性を備え、とても良くできた楽しいミステリです。
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