2024-06-15

アリステア・マクリーン「北極基地/潜航作戦」


北極にある英国の気象観測基地ゼブラで大火災が起こった。生き残った人々を救出するため医師カーペンターは、米国が誇る原子力潜水艦ドルフィンに同乗。ただし、彼には北極へ向かうのに、表向きのもの以外にも秘密にせねばならない任務があったのだ。


1963年長編。北極での自然を相手にした命がけの闘いがとにかく過酷きわまりない。徐々に困難のレベルが上がっていくことでリアリティを確保、緊張感を持続しながら読み進められます。さらに潜水艦にも絶体絶命の危機が襲い掛かり、極限状態にさらされ続けた登場人物たちはみんなフラフラ。果てに死人も出ます。
それでも雰囲気が必要以上に重くなり過ぎないのがいいところで、これは潜水艦の艦長以下、米国人の乗組員たちのキャラクターによるところが大。緊急時でも軽口を叩き、ドライな態度を装うプロフェッショナルたちが恰好いいのです。

密度の高い冒険小説であることは間違いないですが、それ以外の要素が隠されていることは、はじめのうちからほのめかされているわけで。カーペンターは潜水艦のトラブルや観測基地の火災の原因に人為的なものを嗅ぎつけます。犯人を見つけるべく行動を起こすが、彼自身も無事では済まなかった。
災害の影に暗躍しているのは誰か。サスペンスとフーダニットとしての興味が絡み始め、おかげで単調に陥ることがないのです。
ただ、すこしケチをつけると、北極基地に到着してから登場人物がいきなり増えて、区別が大変。気にせず進めようとしても、火災時の人の出入りが非常にミステリとして重要になってくるのでそうもいかず。図面を書いて整理しながら読み続けました。

そうして終盤にはいよいよ、全ての謎が明らかにされます。まさに「名探偵、みなを集めて…」をやるわけです。推理そのものはそう厳密ではないのですが、周到な伏線とプレゼンテーションによって、スリリングな展開が存分に楽しめます。
事件の背後にあったのはいかにも冷戦以前らしい図式で、今読むと単純に過ぎるかもしれませんが、おかげでエンターテイメントとしてはすっきりと後味良いものになっているかと。

0 件のコメント:

コメントを投稿