2024-05-30

米澤穂信「冬期限定ボンボンショコラ事件」


小市民シリーズ四季四部作の最後、であります。今回、扱われているのは小鳩君自身の事件であり、語り口は軽妙ながら、雰囲気はいつにも増してシリアスだ。

小鳩君と小山内さんが並んで道を歩いていると、向かいから来た車が急に方向を変え、ふたりの方へ。とっさに小山内さんを道の外側へ突き飛ばした小鳩君だったが、自分は轢かれてしまう。車は逃走し、小鳩君は重症を負い入院。
控えていた大学受験も見送らざるを得なくなった小鳩君は、三年ほど前にもふたりが関わった別の轢き逃げ事件のことを想起する。その状況が現在の事件とよく似ていたのだ。病院のベッドの上で他にできることのない小鳩君は、過去の事件の顛末を少しずつノートに書き起こし始める。
以降、病院での生活と過去の回想がカットバック的に語られていくのですが。このうち過去の事件のパートは互いの信頼関係がまだ固まっていないことが実は肝ではないか、と疑いながら読んでいました。それにしても、こちらの事件も小鳩君にとっては苦い記憶であることがほのめかされ、あまり楽しい雰囲気ではないのね。
当時、中学三年生であった小鳩君と小山内さんは、逃走した車の足取りを追ううち、ありえない事実を発見してしまう。

読んでいて、どうも勝手が違う。こちらの予断が外され続けていく感じ。
小鳩君が事故にあって身動きがとれなくなった、その犯人を小山内さんが探しているという、これが物語のメインで、前半部は主に過去の事件の回想を中心に進むけれど、後半では小山内さんによる調査もあって、現在の事件と過去のそれとの意外なつながりが浮かびあがってくる。そんな風な展開を想像していたのだが。
結構なところまで読み進んでも、小鳩君の回想はなかなか終わらないし、小山内さんは冒頭以降、ずっと登場しない。一体、この物語はどこへ向かっているのか。

……などと考えていると終盤に、思ってもみなかった展開が待っていた。一応、読んでいて引っ掛かりを覚えてはいたのだが、こういう趣向を使ってくるとは。サイコスリラー的な仕掛けと丁寧な伏線の組み合わせによって大きな効果が上がっていると思います。そこからは小鳩君による怒涛の推理と小山内さんの策謀が炸裂、見事な本格ミステリとして着地します。ほれぼれするね。

また、小鳩君の成長の物語としても良くって。今作で語られる過去の失敗があって、シリーズ第一作『春期限定いちごタルト事件』の導入部分へと繋がっていくのだけど、思えば『春季~』からはまだ、感情的なストレスを回避するようにして物語が進んでいくような印象を受けていたのだ。遠くまで来たものだ。
よい終幕でした。

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