2024-07-15

劉慈欣「三体Ⅲ 死神永生」


三部作の完結編であります。帯には「三体vs地球 最終決戦が始まる!」の文字。どうしたの、第二部の最後で地球と三体世界は仲良くなったんじゃなかったの、とも思いますが。こうしないと話が続かないね。

今作は導入からして前二作とは少し変わっています。『時の外の過去』からの抜粋という文章が置かれており、その中で「以下に語る出来事は、過去に起きたことではなく、いま現在起きていることでも、未来に起きることでもない」とあって、なんだかメタフィクションっぽい。この、物語の外側から書かれた文章は、後にもたびたび注釈パートとして入ってきます。

作中時代はいったん、第二部のはじめの頃に戻ります。対・三体世界として面壁作戦と同時に展開されていた計画があったというのです。その中心にいたのが女性の研究者、程心ていしん(チェン・シン)。今作では彼女の視点から、三体世界との関係とそれに伴う地球の変化が語られます。くわしくは言いませんが、地球全体が再びすさまじい災禍に見舞われるのです。ところがその物語は上巻の後半で突然、終わってしまう、そう見える。
地球は相変わらず危機にあるのだけれど、お話はもはや三体世界と関係ないところへ行ってしまう。そして、後半へいくにつれてSFとしての純度もどんどんあがっていく。特に宇宙空間へ舞台を移すことで、制限がなくなったようにスケールの大きなアイディアが炸裂していきます。

なお、程心のキャラクターがあまり能動的なものではないので、途中までは乗りにくいかもしれません。作品の規模が途轍もなく大きくなったため、個人の行動を中心に話を進めることが難しくなり、視点人物には事象の観察者としての役割が大きくなってしまうのも仕方ないところでしょう。

あまりなほどに広がっていく光景に、下巻後半にはもう展開を見守るばかり。いわゆるワイドスクリーン・バロックです。かと言って、まとまりを欠いているわけでもない。とりわけ、途中で落ちていったと思われた要素が忘れた頃に重要なキーとして蘇ってくると、ぐっと来ますな。
そして最後には煙に巻くこともなく、しっかりとした結末へ。メタフィクションではなかった。

三部作中でも特にSFでした。いや、凄いものを読ませていただきました。

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