2026-01-21

アンソニー・ホロヴィッツ「マーブル館殺人事件」


昨年英国で出された、スーザン・ライランド&名探偵アティカス・ピュントもの新作長編。

前作ではギリシャに移住していたスーザンは、結局ロンドンに戻りフリーランスの編集者として働くこととなった。スーザンって55歳なんだな、結構大変。
で、彼女にオファーがあった仕事、それはアティカス・ピュントを主人公とした作品、その新作を担当することであった。ピュントのシリーズの作者、アラン・コンウェイはすでに亡くなっている上、シリーズそのものも完結しているのだが、出版社の発案で別の作家による続編が書かれることとなったのだ。

その作品「ピュント最後の事件」でありますが、ピュントが不治の病によって、余命が限られてしまっているところはアガサ・クリスティのポアロもの『カーテン』のようですし、ピュントと旧知の人物はオリヴァ夫人のようなキャラクター。また事件の導入には『もの言えぬ証人』を想起させるところがあるなど、かなりのクリスティ度を感じさせます。子供の設定はクイーンのあれかな、という気もしましたが、その子も容疑者としてカウントされているので違うか。
なお、物語のはじめの段階では「ピュント最後の事件」はまだ完成しておらず、書かれたところまでの原稿をスーザンがチェックするという体裁になっています。

一方で、現実世界のパートは読んでいてちっとも楽しくない。スーザンは人と会っているところではずっと気詰まりな思いをしているか、緊張感を覚えているようである。それでいて自らトラブルに首を突っ込んでいるのは明らか。そもそもこいつが一番厄介なやつなんじゃないか、とさえ思えてくる。この作者の別シリーズ「ホーソーン&ホロヴィッツ」ものにおけるホロヴィッツと同じじゃん。
その内に殺人事件が起き、案の定、スーザンはそれに巻き込まれていくわけです。ここからさらにひどい目に合っていきます。


いつもながらピュント作品の部分はウェルメイドの良さがあって、愉しいです。謎解き場面に関しては今までのピュントもので一番よくできているのでは。クリスティ流の仕掛けを使いつつ、ただなぞるだけではない、捻りのあるものになっています。手掛かりは不十分ですが、そこはそれ。

外側である現実パートもミステリとしてかなり作り込まれていて、フーダニット以外にもいろいろと盛られています。スーザンが事件を調査していくうちに、自分が始めからある種の駒として取り込まれていたことに気付く展開など、奥行きがあって良いです。
そして、こちらの解決編も意外性に富み、伏線の回収の快感で読ませるものです。例によって証拠は後出し気味だし、余詰めへの配慮もまるでないのですが、それまでの苦難が嘘のように都合よく進んでいき、ドラマにもうまく嵌っています。また、これまでのシリーズ二作では作中作の内容と現実事件の結びつきは、正直弱かったと思うのですが、今作ではそこが工夫されているかな、と。


終わってみれば作中作、現実パートともによく考えられたミステリでした。
しかし、個人的にはあまりにストレスを感じる場面が多く何度も中断、読み終えるのに随分かかりました。作中作の部分だけを独立させて売ってくれないものか。