2017-05-07

アガサ・クリスティー「カーテン」


いくつかの互いには全く無関係に見える殺人事件。しかし、ポアロによればあるひとりの人物がそれぞれの事件の関係者と知り合いであったり、あるいは事件の起きたときに近隣に住んでいたというのだ。そして現在、その人物はスタイルズ荘に滞在している。体が衰え、もはや自分の力で歩くこともできなくなったポアロはそれでも新たな事件を未然に防ぐべく、旧友であるヘイスティングズを呼び寄せた。


エルキュール・ポアロ最後の事件。発表は1975年だが、実際に執筆されたのは1940年代のはじめというから『五匹の子豚』なんかが出た頃、クリスティもまだまだ脂の乗っていた時分ですね。
舞台はデビュー作と同じスタイルズ荘で、懐かしき相棒であるヘイスティングズによる手記、というかたちをとっています。ヘイスティングズは1937年の『もの言えぬ証人』より後の作品には出てこなかったので、38年ぶりの再登場となります。

ポアロには最初から犯人がわかっているが、証拠はない。だから、誰が狙われているのかを見極めなければならない。ミッシング・リンクもののような設定ですが(『ABC殺人事件』の真相の一部にも触れています)手掛かりがない上にポアロはいつにもまして自分の考えを明らかにしないので、途中における推理の興趣には乏しいです。ヘイスティングズがただただ疑心暗鬼になるばかりなのですが、サスペンスを感じさせる展開で十分に読ませます。

ミステリとしては奥行きのある真相が非常に読み応えのあるもの。会話のはしばしに潜んだ伏線やダブル・ミーニングもとても手が込んでいて楽しい。キャリア末期に書かれたあれやこれやとはエラい違いだ。
一方で、恐るべき真犯人のキャラクターや、巧緻極まりないはずの犯罪方法には全く説得力が感じられません。あるいは、このテーマはクリスティには描ききれないものだったのかも。

ともあれ、ポアロの最後にふさわしいだけのプロットを持つ作品だとは思います。面白く読みました。

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