2019-04-14

Curtis Mayfield / Keep On Keeping On: Studio Albums 1970-1974


今年Rhinoからリリースされた、カーティス・メイフィールドの4枚組。中身はオリジナル・アルバム「Curtis」、「Roots」、「Back To The World」、そして「Sweet Exorcist」のリマスター。ボーナス・トラックは収録されていないし、ブックレットもついていない簡素なつくりです。
タイトルが「Studio Albums 1970-1974」なので二種類のライヴ盤は入っていません。「Super Fly」が入っていないのもサントラだからかな。しかし、「Got To find A Way」も1974年のアルバムなのだがな。残りのカタログもいずれ、まとまったかたちで出してくれるというのならいいのだけれど、どうも内容量には不満です。


音のほうはさすがにRhino、ちゃんとしています。特に「Back To The World」と「Sweet Exorcist」はおそらく、まともなソースからのリマスターは世界初ではないでしょうか(カーティスの遺族によれば、英Charlyが出しているのはブートレグだ、とのこと)。この二枚だけでも価値はあるのでは。


「Sweet Exorcist」は1974年にリリースされたアルバム。それまでと比較すると、派手さの無い落ち着いたサウンドで、管弦も使われているのだがやや控えめ。その分、基調となるグルーヴや微妙なアレンジを聞かせるものになっているのだが、曲によってはいささかベースがうるさくて、それが軽快さを損なっている印象も受けます。

それぞれの曲は丁寧に作られていて、特にアルバム前半の流れが凄く良く出来ている。
中でもメロウなタイトル曲 "Sweet Exorcist" ではボーカルの重なり具合など、繊細なアレンジが凄く好みです。
また、アナログA面最後に当たる "Power To The People" のポジティヴな曲調はアルバム中で一番コマーシャルかも。クラヴィネットが印象的です。

シングルになったファンク、"Kung Fu" にはブラックスプロイテーション的なアレンジの管弦が施されているが、主役はあくまでグルーヴだ。しかし、ちょっと硬派すぎるかも知れんね。
ドニー・ハサウェイとの共作、"Suffer" は元々1969年に出されたホリー・マクスウェルという女性シンガーのシングル曲。スロウでも微妙にリズムが跳ねているのがシカゴ流儀かしら。

時代に向き合うためによりオーソドックス、もしくはカジュアルな表現を取り入れ、それを独自のスタイルとブレンドする試行錯誤。それが重さになることもあれば、感動的な表現に結びつくこともある、そんな感じ。

2019-03-24

Rupture / Israel Suite/Dominante En Bleu


1973年、カナダ人ドラマーが中心となってフランスで制作したアルバム。オリジナルは少数枚のプライヴェート・プレスだったそうなのだが、権利関係がややこしいことになっているようで、Discogsのレヴュー欄ではリイシュー会社同士でやりあっていて何だか。

肝心の内容の方ですが、大雑把にいうと歌物のヨーロピアン・ジャズ・ファンク。深いエコーが特徴的で、クールなエレピが気持ちよく、スタンダップベースの太い響きも効いている。そこにブラジル的でメロウなメロディが乗っかる。歌詞はフランス語なり。

アナログではA面全体を占める "Israel Suite" は18分余に及ぶ組曲。フュージョンというかジャズロックって感じの演奏はキメもあればフリーでアブストラクトなソロもあるし、オーセンテイックなピアノトリオのようなパートもある。さまざまな局面を見せながら、しかし、歌の部分がしっかりとポップソングで、終盤には結構ドラマティックに盛り上がる。初めて聴いたときはピンとこなかったのだが、この展開を飲み込んでからは良くなってきた。

アルバム後半はコンパクトでわかりやすいものが5曲並んでいる。
ボーカルパートが少ない "Alice Aux Miroirs" は丸っきりフュージョンといって差し支えないものであるし、一方でアコースティック・ピアノが使われた叙情的スロウ、"Entre Ses Cils" はシンガーソングライターものを聴いているようである。
それらの中でも "Mes Histoires Bleues" は疾走感あるジャズファンクで、そこにメランコリックなメロディがはまっている。よく転がるエレピも気持ち良く、どれか一曲というと、これが一番格好いいかな。

クールで都会的なジャズファンクをベースにしながらメロウなポップであり、結果としてプログレとシティ・ポップを縦断してしまっているようでもある。おしゃれフレンチというにはちょっと尖り過ぎていますが、そこもかっちょいい。
しかし、特定のジャンル・プロパーのひとは受け付けないかも知れんね。節操の無いリスナー向けという気はします。

2019-03-09

R・オースティン・フリーマン「キャッツ・アイ」


1923年作品でソーンダイク博士もの。
宝石「キャッツ・アイ」を狙った強盗殺人があり、その犯人たちのひとりを目撃した女性の命も狙われる、というお話。

読み物としては流石に古風です。その中でも大きいのは過去の因縁話と現代の事件を絡めるやり方ですね。ロマンといえばそうなんだけれど、そのセンスからは前時代的な印象を受けます。クリスティ以前、ドイルの時代というね。
また、ヒロインが危険に晒される場面やロマンス部分など型にはまったものでしかないように思いました。物語中盤あたりはだれてしまって、なかなか読み進める気にならなかったのが正直なところ。

一方、ミステリと面はとてもしっかり作られています。ロジックの飛躍には乏しいものの、手掛かりの圧倒的な量もあいまって、こうでしかないという説得力があります。さりげない伏線ではなく、はっきりとした証拠ばかりとあって、力強い。特に物語の序盤に示された手掛かりが決定的な意味を持っていた、というのは個人的にしびれるところであります。
また、フーダニットとしてはたしかに意外性はないけれど、犯人の属性には十分に意外性を考慮した(この時代としては、ですが)ものであると思います。

現在の感覚からすると冗長なのですが、まあクラシック作品を読むようなひとは、むしろそこを愛でるのかな。
実の詰まった力作ではないかと。

2019-02-11

Utopia / Deface The Music


トッド・ラングレンのユートピア、1980年のアルバムはビートルズのパスティーシュというかオマージュというか、そういうもの。
しかし、改めて聴いてみるとメロディやアレンジはともかく、楽器の音色やミックス等、サウンド面からはそれほど似せようという意識は感じないですね。鍵盤とか嘘みたいだ。トッド・ラングレンはソロの「Faithful」で'60年代の有名曲のコピーを披露しているので、もっとやろうと思えば出来たはずですが。ソロとグループの違いでしょうか、マニアックな楽しみよりダイナミズムを優先したのかもね。

このアルバム、ビートルズの音の変遷をたどるような構成になっていて、初期ビートルズを意識した曲では、なるほど、それっぽいなあ、と思うわけですね。けれど、アナログB面にあたる後半のほうになると、別にビートルズ云々がなくても楽しめるポップソングも多いんですよ。"Hoi Poloi" なんて後のジェリーフィッシュみたいだし、"Always Late" はビートルズよりもスタックリッジに近いんじゃないかな。また、サウンドでいうと "Feel Too Good" はXTCの「Skylarking」のそれと共通するものがあります。

判りやすいかたちでのトッドらしさは希薄なのですが、実のところ多岐にわたるユートピアの音楽の中で、個人的にはこのアルバムが一番肌に合うのですね。

2019-02-09

アンソニー・ホロヴィッツ「カササギ殺人事件」


舞台は1955年の英国。病気により余命2、3ヶ月となった名探偵アティカス・ピュントは残された時間を静かに送るため、もう事件の依頼は受け入れないつもりでいた。しかし、田舎の小さな村からロンドンまではるばるやってきた若い女性の相談──婚約者が自分の母親を殺したという疑いの目で見られている──に、つい耳を傾けてしまった。


昨年、一番話題になった翻訳ミステリなので、とりあえず読んで見た。結論からいうとわたしはそれほど感銘を受けなかったのです。

ます、アラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』なんですが、こちらはオーソドックスなフーダニットとしてとても楽しく読めました。
最初の事件の真相はまあ、見当が付きやすい(というかクリスティのパスティーシュならこうなるだろう、という)もの。
そして第二の事件のほうなのだが。なるほど過去にあった出来事を読み解くことで現在の事件の構図が明らかになる、というのはいかにもクリスティらしい趣向ではあります。解決編のプレゼンテーションも良い。まず、ひとつひとつはそれほどでもない伏線を、しかし大量に回収していく。見事ではあるけれど、これらはまだ、そうであれば綺麗に収まる、というレベルにとどまるもの。だが、最後になって些細だけれどこうでしか説明できないという事実を出してくる。これにより、全体がびしっと締まりました。
純粋に謎解きだけをとればクリスティの水準作を上回っていると思います。ただし、ストーリーテリングやパズルがドラマを生み出すという点ではそこまではいかないかな。

一方で作中の現実パート、小説『カササギ殺人事件』をめぐって起きる事件のほうは、まあそこそこというか。こちらの登場人物が作中作のモデルになっていたりするので、事件の手掛かりも作中作に忍ばされているのではないか、とわたしは勝手に思ってしまったのだ。
このパートの仕掛けとしては遺書のトリックがメインだと思うのだが、いくら何でもヒントを出し過ぎである。ああ言われれば読み返すし、読み返せば気付くよ、そりゃあ。
あと、犯人はそもそも結末だけでなく原稿全体を抹消してしまえばよかったんじゃないの、と考えたのですが、どうかしら。

悪くはないけれど、期待し過ぎたのかなあ。上巻を読んでいるときはなるほど、これはいいぞ、と思っていたのだけれど。

2019-01-27

Classics IV / Spooky/Mamas And Papas Soul Train/Traces/Song


昨年の暮れに英BGOよりリリースされたクラシックス・フォーの2CD。1968~70年にかけてImperialおよびLibertyから出た4枚のアルバムをまとめたものであります。
彼らの場合、コンピレイションはいくつか出ていたのだけれど、なぜかオリジナルアルバムの形でのリイシューは(怪しいものを除けば)これまでされてなかったので、これは待たれていたのではないかしら。


ファーストの「Spooky」はタイトル曲がヒットしたことを受けて急造されたのか、その "Spooky" を除くと、それほど大したことが無い。オリジナルと有名曲のカバーが半々で、中ではスタンダードの "You Are My Sunshine" のファンキーな仕上がりがユニークというか何と言うか。ボーカルはジェイムズ・ブラウンの物真似だし。一方、オリジナルの "Poor People" は純然たるハリウッドポップ。この曲や次の "Book A Trip" なんて聴くと、やはりスタジオ・ミュージシャンの演奏だよな。
他にはデニス・ヨスト以外のメンバーがリードボーカルを取っている曲もあって、まだスタイルがまとまっていない感じがします。

セカンド「Mamas And Papas/Soul Train」になるとオリジナル曲が中心になり、プロダクションもしっかりしたものに。全体にソウル色を感じさせるアレンジ、歌唱が聴けるものが多く、特にスロウの "I Pity The Fool" など堂々としたものだ。ヒットした "Stormy" でのエレクトリック・シタールの使用もソウル的な流行から考えればしっくりくるな。また、わざわざ "The Girl From Ipanema" までファンキーに料理しているのだが、これが悪くないのだ。
ソングライティングの面では "24 Hours Of Loneliness" あたりに洗練というか、よりポップな方向へ向かう兆しが見えています。

1969年に出たサード「Traces」はぐっとミドル・オブ・ザ・ロードな方向へシフトした内容。ストリングスも入って、ロックバンドらしさは薄くなっていますが、その分ポップスとしては迷いがないとも言えます。アルバム4枚のうちどれか、といえばやはりこれになるかな。中ではトミー・ロウの "Traffic Jam" が軽快なサンシャイン・ポップであって、特に好みですね。

翌年の「Song」はImperialの親会社であるLibertyよりリリース。ジャケットにあるのはデニス・ヨストの顔だけであり、ヨストの名前がグループ名より大きく記されています。
音楽のほうはゴージャスなオケをバックにソロシンガーがしっとりと唄い上げる、という感じで、ときおりB.J.トーマスあたりに近い印象も受けます。全体に曲の粒は揃っていると思うのだけど、個人的にはやや落ち着き過ぎかな。都会的な面を強調した "Midnight" や、ブルー・アイド・ソウルとして聴ける "Pick Up The Pieces" なんていいですけれど。


ヒット曲だけ取ると似たようなものばかりながら、アルバム単位で聴くと短い期間のうちにも音楽性にはある程度、変遷があるのが感じられます。その初期においてはバンドとしての雰囲気を残していたのが、最後にはデニス・ヨストのソロといってもいいようなムード歌謡になっていくという。
あと、ライナーノーツを読んで知ったのですが、大ヒットシングルをいくつも持っているわりには、これらのアルバムはさっぱり売れなかったようであります。そういったところもリイシューが遅れていた理由かもしれませんね。

2019-01-03

Johnny Mandel / M*A*S*H (original soundtrack)


1970年のいわゆるニュー・シネマ、そのサウンドトラックであります。映画のほうは昔テレビでかかったときに一度見たことがありますが、あまり印象が残っていない。個人的に良く覚えているのはテレビドラマシリーズのほう。もっと思い入れがあるのはリチャード・フッカーの原作小説ですね。

この盤はいかにも古い時代のサントラらしく、劇中のダイアローグが盛り込まれているのですが、曲中にも会話が割り込んでくるので、純粋に音楽を楽しむにはあまり向かないのです。ジョニー・マンデルによる劇伴曲のほか、日本の古い歌も入っていて面白いのだけれどね。

テーマ曲は "Suicide Is Painless" で、さすがにこれは余計な邪魔もなく聴けます。パセティックなフォークロック調の曲で、レターメン風の男声ユニゾンがハーモニーへと変化していくさまが美しい。歌っているのはベイラー兄弟らL.A.のセッションシンガーたちで、まあ、聴き所というとこの曲に尽きるのですが(シングル盤も良く売れたそう)。さて、ここからが本題。
1973年にアーマッド・ジャマルがこの曲をカバー、シングルでリリースしている。リチャード・エヴァンズがアレンジを手掛けたこれがえらく格好いいジャズファンク。翌年のアルバム「Jamalca」にも収録されているらしいのだけれど、これが全く再発の対象にならないのだ。
ところが、このジャマルのヴァージョンが「MASH」のサントラ、その1973年の再発盤でコーラス・ヴァージョンの代わりに収録されたのだから妙な話。現在出回っている「MASH」の廉価版CDでもボーナストラック扱いで聞くことができるのは非常にありがたいのだが、サウンドの質が全く異なるのでなあ、「Jamalca」も出してよ、とは思う。