「図書館は自伝をフィクションとして分類すべきだ ― わたしはかねがねそう思っていた」
そんな書き出しで始まる一人称小説。いかにも信用できない語り手という感じではある。と言ってもこの主人公は虚偽を書いたり、重要なことをあえて書かなかったりするわけではない、誠実な語り手ではありますが。
主人公は転んで頭を強打し、意識を失ってしばらく入院する。その事故の後、それまでは自分の記憶の確かさには自信を持っていたのに、いくつかの場面でそれらが事実とは異なるという経験をします。また、見知らぬ人間から旧知の間柄のように話しかけられ困惑するなど、読んでいてあからさまなまでに違和感がある場面が散りばめられ、「もしかしてパラレルワールドもの?」なんて思ってしまった。
更に主人公の周辺で不可解な事件が続発し、ついには死人が。
ミステリとしてはとんでもない大技が使われているのだけれど、この作品は1957年のものであって、それ以降さまざまな作品で使用されてしまうネタであるため、ミステリを読みなれているならある程度見当が付くであろう。ただ、それまでに敷き詰められた伏線の量が半端なく、さまざまな疑問が一気に氷解していく迫力は素晴らしい。大ネタに向けて丁寧に仕込み・構築された世界は流石マクロイ、といったところ。
でもって、この最大の驚きが発覚するのは実は作品の3分の2くらいのところであって、これがクライマックスというわけではないのね。そこからも物語はまるで予期せぬツイストを経ていく。
そして、読み終わった瞬間には作品タイトルの意味が浮かび上がる趣向が絶品。
静かな文体の中で、本当にさりげない形で逆転が示されるのが、もうニクイったらありゃしない。かなり人工的な印象の小説ではあるけれども、それを補う情感も申し分ないでしょう。
やはりマクロイに外れなし、なのか?
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