既に色々なところで言われてるように、『Another』は綾辻行人の新たな代表作になるのかな。力作だけど、重くなっていない。
中学校を舞台にしたホラーで、死人はばたばたと出るものの、それほど怖くない。この作者らしい雰囲気重視のねっちりした描写は今回控えめで、(キャラ萌え要素も含みつつ)会話中心で淡々と進んでいく。そのせいか、700ページ弱の量をするすると読んでしまえた。
物語を駆動していくのは恐怖よりも謎への興味である。ホラー設定下に置けるミステリといえるのだが、SFミステリのような特別なルール下においての謎解き、というのともちょっと違う。人は次々に死んでいくのだけれど、それは事故死だったり病死であったりで原因はまちまち。大元になっているのが呪いや祟りと云った不気味な力や法則ではなく、よくわからないが何故か死人が出てしまう、という特異な設定である。さらには事件に関わった人々の記憶や記録がいつの間にか改竄されてしまうのだ。ルール自体がはっきりしない上に事実も不確定という、かなり特殊な状況におけるミステリであるから、関係者でありながら事件の謎を論理的に解く、というのが極めて困難である。
(読者にとっての)伏線やヒントはかなり大判振る舞いされているので、早めに真相にたどり着くひともいるかも知れない。僕もある程度までは読めたのだが、最後の最後にはしてやられた。この瞬間に物語全体が変質してしまう、といっていい鮮やかさ。あざといまでに読者の裏を掻く、この手口こそ綾辻の真骨頂ではある。判ってしまえばすごく構造がすっきりとしており、シンプルなのは美点だとは思う。
余りにぶっといボリュームに比すると読み応えがやや薄い、という感じはありますが、青春小説的な爽やかさが救っているんではないかと。
事件がすべて終わった後、よく考えたら問題は何も解決していない、というのもアレですが。青春とはそんなものか。
2010-02-01
綾辻行人「Another」
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