2010-06-26

フィリップ・K・ディック「未来医師」

1960年発表作品、の本邦初訳であります。時間改変もの。

残り物には福が、とはいかないようで。雑誌に載った中編を版元の要望によって書き伸ばしたこの長編、作者本人があまり評価していないだけでなく、ディック評伝を手掛けた評論家は十段階で「一」としているらしい。
まあ実際読んでみても、小品といって間違いないです。

設定やテーマの掘り下げは深いものではないし、キャラクターも陰影豊かとはいえない。
ディックの傑作群に見られるような、現実認識を揺さぶる衝撃も用意されてない。
そうしたものが剥ぎ取られて、しかし残ったのはSF作家としての独特のセンスです。
どうしてこうなってしまうのか、という捻れたプロット。
奥行きのない、薄っぺらで軽く、それゆえに非常に魅力あふれる質感の世界。
でもって、抜群のストーリーテリング。後半のスピード感ある展開、あっと驚く真相はどうだろう。
タイムトラベルものとしてのまとまりも悪くないぞ、うん。

この作品でしか味わえないようなものはありません。が、純粋なエンターテイメントとして書きとばされたが却って、ファンなら評価とか関係なしにディックらしさを愛でることができるんじゃないかしら(ファンじゃないひとには勧めませんけど)。

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