2010-07-16

アガサ・クリスティー「ゴルフ場殺人事件」


引退した有名なゴルフ・プレイヤーである、ルノー氏。現役時代に稼いだ賞金で自分のゴルフ場を経営するなど、今は悠々自適な生活。彼の元にはその資産を目当てに、家族だけでなくさまざまな親族や友人たちが出入りしていたのだが、最近になってルノーは自分の死後は全ての資産を寄付すると宣言、にわかに彼の周りの人物の間に険悪な空気が。そんなある日、ゴルフコースでルノーが打ったボールがギャラリーの頭部を直撃、死に至らしめてしまう。だが、その本当の死因は事故ではなかった・・・。
と、いうようなお話ではないです。題名は『ゴルフ場殺人事件』となんだが芸がないものですが、実際は死体がゴルフ場で発見されるというだけで他にはゴルフに関する要素は出てきません。

クリスティのボアロもの、第二作です。デビュー作『スタイルズ荘の怪事件』には先行する探偵小説の形式を意識したような堅いところがありましたが、この二作目にはそういう部分は既になく、早くもクリスティのスタイルは完成しているような感があります。

表面的な事件そのものはシンプルなのに、複雑に絡みあったプロットはちょっと先が読めないもので。そして、物語中盤で明かされる隠された構図、そのアイディアは大したものであり、こんなにあっさり出してしまっては勿体無い、と思わせるくらいでありますが、その後も事件が発生、どんでん返しがあるなど、後半部分はまさに巻を措くあたわず、の展開が楽しめます。
また、ヘイスティングズの惚れ病が発症して意図的に捜査を妨害したり、尊大なライバル探偵が現れ、ポアロのプライドに火をつけるなどの味付けも充分。

謎解き面では奇妙な手掛かりの数々がチェスタトン的であったり、クイーン風であったりで実に楽しいです。特に、現場に落ちていた腕時計が二時間進んでいたことからの推理の流れが素晴らしい。プロットが入り組んでいる分、ポアロによる絵解きのシーンは丁寧で、かなりの紙幅が割かれているのも嬉しかった。
純粋に推理の醍醐味が楽しめる力作でした。

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