2010-09-04

D・M・ディヴァイン「災厄の紳士」


うー、やっと読み終えた。
この作品を紹介する文章で、コン・ゲームがフーダニットに変貌、云々という紹介がされているものをいくつも見ていたので、期待して取り掛かったのだけれど。
この小説の前半、これをコンゲーム小説といっていいのか? ユーモラスなやりとりや知恵を駆使した丁々発止、なんてものは無いし。煎じ詰めれば結婚詐欺&脅迫で金銭を奪う、という下衆なだけの展開で。全然乗れなかったのが本当のところ。
そして舞台となる家族間では確執が絶えず、なんだか鬱陶しい雰囲気。さらには事件の捜査にあたる警官も家庭に問題がある上、上司や同僚に不満があって、とこちらもやりきれない。
とにかく作品世界に馴染めず、なかなか読み進める気にならなかったのであります。

小説の中盤くらいで死体が発見されてからは、一気に読みやすくなりました。が、これは僕個人の問題かもしれないですな。
ミステリとしては凄く良く考えられていますね。読み終わってみれば、ごく単純な話であったということがわかります。トリックらしいものもないし。それが見せ方の工夫でもって、奥行きがあり、謎だらけの複雑な小説になっているのは大したものであり。
そして、解決編はシンプルがゆえに力強い。ひとつの物証からただ一人の容疑者へとたどり着くロジックは鮮やか。
逆に、それを補完する心理的・性格的な証拠の説得力は弱い。というか、これでは辻褄が合わないのでは。犯罪が計算づくなのか杜撰なものなのか、よく判らなくなってくる。回収される伏線には大胆なものもあって、僕好みなのだけど。

キャラクター設定や特異な構成等の全てが、実はフーダニットとしての効果に寄与しており、そういった意味では野心的であり純度の高い謎解き小説ではありますが。

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