2013-12-02

ジョン・ディクスン・カー「夜歩く」


1927年4月、パリ。予審判事アンリ・バンコランと友人のジェフ・マールは深夜のナイトクラブの片隅に身を隠していた。整形手術で顔を変えて逃亡中の殺人犯、ローランの身柄を押さえるためだ。ローランによってその命が狙われているというサリニー公爵、彼がひとり入っていったカード室のドアは確かに監視されていたのだが・・・。

カーのデビュー作、その新訳です。お話そのものは再読のはずなのですが、どんな内容だったかは綺麗さっぱりに忘れていました。
残虐な犯罪にまつわるけれんや不可能趣味、皮肉なユーモアなど、いかにもカーと思わされる要素は既に見られますが、文章は新人作家らしい熱意が感じられるもの。非常に扇情的であり、サスペンスフルな雰囲気が作品を支配しています。ポオへのオマージュも微笑ましいな。

ミステリとして見ると、プロットはしっかり練り込まれていますが、トリックの方はやや時代がかっていることは否めませんし、解決編でも強引なところが目に付く。けれど、そのことは逆にカーという作家の本質がこの時点で確立されていたことを示しているようで興味深い。
一方で、一つの謎が解かれることで、さらに大きな謎が立ち上がってくる展開は堂に入っており、明らかにされる犯行シーンの画も実に魅力的なものであります。

若さゆえの非常に濃ゆい後味を残す一作でした。
次は一月末に『殺人者と恐喝者』の新訳が出るということで、いやいや、堪えられませんなあ。

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