ニック・ドレイクの音楽を聴いて、いつも感じるのは精確さだ。1970年前後に出てきたシンガー・ソングライターと呼ばれるミュージシャンのうちには、曲は良いのを書くけれど、シンガーとしてはリズム感が悪かったり、音程が怪しいようなひとも多かったのだが。ニック・ドレイクの唄、そしてギターの演奏からは明晰さすら感じられる。
また、その手に拠る楽曲も、自己愛からくる冗漫さや曇りが一切ないようなのだ。あるのは澄み切った自己認識のみで。
「Five Leaves Left」(1969年)は生前に残された三枚のうち、最初のアルバム。
穏やかな表情をたたえながらも隙の無い曲の数々を聴いていると、この人はデビュー時には既に完成されていたのだろう、と思わせられる。それが二十歳そこそこの若いミュージシャンにとって、必ずしも良いことなのかどうかは判らないけれど。
その音楽が何ら奇矯なことをしていないのに他に類を見ないような魅力を放っているのは、己のスタイルに対する信念が恐ろしく強固であったからか。
個人的は "River Man" が一番、好きだ。美麗なアレンジは勿論、五拍子を奏でるギターが生み出す独特のグルーヴが素晴らしい。
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