2014-01-05
フラン・オブライエン「第三の警官」
フィリップ・メイザーズ老人を殺したのはぼくなのです――自らの著作を出版する資金欲しさに、腹に一物ありそうな雇人と共謀して金持ちの老人を殺した「ぼく」。事件のほとぼりがさめた時分に、隠してあった金庫を回収に向かったのだが・・・・・・。
出だしこそ倒叙ミステリめいていますが、かつてはポストモダン小説と呼ばれていたような、今ならファンタジーとして受け入れられるであろう作品。もともとは1940年に書かれたそうであって、現代の読者にかかればお話全体の秘密は最初の4、50ページほどで見当がついてしまうかも。
しかし、この作品において筋書きなど大した意味は無いようでもある。奇妙で現実感を欠いた展開はさっぱり脈絡が掴めないし、SFめいた仕掛けも多いのだが唯々ナンセンス。意味が通じてるんだかいないんだか良く分からない会話。語り手の「ぼく」は不条理な運命に翻弄されているにもかかわらず、決してすっとぼけた軽薄さを失わない。
また、「ぼく」が書いている本というのはド・セルビィという名の、ある物理学者の業績を分析したものらしく、物語には頻繁にそのド・セルビィ的な、万物のあり方や認識に関する馬鹿馬鹿しくも奇怪な理論が差し挟まれる。更にそういった箇所には、鹿爪らしい筆致ながら実にデタラメかつ脱線だらけの脚注が付されているのだけれど、それらも「ぼく」自身の手によって書かれているのではないか? と思えてくるのだ。
「あんたはいちごジャムがぎっしり詰まった家だって手に入れられる。どの部屋にも隙間なく詰めこんであるので扉が開かないほどだ」
結論やらテーマのはっきりしたものを好む人には合いそうにありませんが、奇想に溢れ、とても手の込んだ喜劇小説でありました。
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