2016-02-07

アガサ・クリスティー「教会で死んだ男」


英米で出された二つの短編集から編まれた、早川書房オリジナルの拾遺集。
1920年代に発表されたエルキュール・ポアロもの十一作に加え、'50年代に発表されたジェーン・マープルものとノンシリーズのものがひとつずつ収録されています。

『ポアロ登場』でもそうであったけれど、ごく初期の短編はシャーロック・ホームズ譚の影響がすごく強い。「呪われた相続人」「料理人の失踪」のプロットなど、そのまんまという感じ。
ヘイスティングズの語りにもワトソン博士風のところが多く見られて微笑ましく、特にクリスティの短編として最初に世に出たという「戦勝記念舞踏会事件」の書き出しなど、もしかしてパロディなのか? と思うほどだ。

ミステリとしては「クラブのキング」がシンプルな手掛かりが効果的でいいし、「マーケット・ベイジングの怪事件」も物証から組み立てられる手堅い推理が悪くない。また、「コーンウォールの毒殺事件」での心理分析は後年の長編に通じるものがあるか。
しかし、意外な真相を志向しているものの伏線不足で、ポアロの推理を聞いてもあまりピンとこないものも多いな。むしろ謎解き小説の定型を脱している「二重の罪」や、ヘイスティングズが出てこない「スズメ蜂の巣」が、展開が読めなくて面白かった。

ノンシリーズの「洋裁店の人形」は知らないうちに移動している人形の話。ミステリではないのですが、一作こういうのが混じっていてもいいか。

最後の「教会で死んだ男」はマープルもので、冒険スリラー作品に近いテイストかな。『予告殺人』の牧師夫妻が再登場。
大して手掛かりはなくとも、例によってマープルにあっちゃあ何でもお見通しだ。

後に中・長編に仕立て直されるアイディアも見られますし、ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人の初登場作品なんてのもありますが、全体として小粒な印象。まあ、ファン向けですね。

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