2016-07-03

アガサ・クリスティー「カリブ海の秘密」


「殺人犯のスナップをごらんになりますかな?」
甥であるレイモンドのすすめで西インド諸島へ療養にやってきたミス・マープルは、滞在先のホテルで話好きの退役少佐から現代の青ひげ、ともいうべき男についての逸話を聞く。だが、その男の写真をマープルに見せようとしてした少佐は、何かを見つけたような表情を浮かべ、いきなり話題を変えてしまう。そして、その夜のうちに少佐は亡くなった。


1964年に発表された長編です。
扱われているのは、旅行先のホテルに集まった人々の間で起こる殺人事件。このタイプの作品は以前にもいくつかあったと思うのですが、それらに比べるとずいぶんと落ち着いた雰囲気です。複数の夫婦がいて、不倫が仄めかされているのですが、激しい感情の高ぶりなどはありません。このあたりクリスティがすでに70歳を過ぎていたこともあるのでしょう。

ミステリとしては手がかりに乏しく、有力な容疑者もなくて、誰が犯人であってもおかしくない、という感じ。もっとはっきり言うと、マープル以外の人間が推理しても真相に到達できるようにはなっていません。この時期のクリスティの作品はフェアプレイの謎解きを構築することに、もはやそれほど頓着していないという気はします。

派手さ・けれんはないもののリーダビリティ、サスペンス、意外性、そのどれもがほどほどのレベルにはありますね。
全体としてミス・マープル大活躍編、といったところが読みどころかしら。

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